●東京“周辺区”に集中
高層マンションやオフィスビルが立ち並ぶ大都市・東京。だが、目を転じれば、足元に貧困は転がる。所得格差が拡大し、裕福なエリアと、貧困のエリアが色濃く分かれつつある。
生活が苦しい小中学生に対し、学校生活に必要な経費を自治体が支給する「就学援助」の受給率が東京23区内で最も高いのは、板橋区だ。公立小中学校の入学説明会会場で、生活保護の申請書類を置くことも多い。
中川修一教育長は、就学援助や福祉施設の充実、都内最多を誇る精神科病床数など、「福祉の板橋」としてのセーフティーネットを求めて移住してくる人が多いのではと推測する。区の教育担当者は、家賃の安い都営住宅や障害者施設などが板橋のような東京の“周辺区”に集中しているため、それらを必要とする人が集まり、税収は減る一方で、福祉予算がかさむ悪循環が生まれているという。板橋区の2015年度予算では、教育費の割合が12.6%なのに対し、福祉費は58.7%にのぼった。
限られた教育費は何に投資されているのか。貧困層への対応よりは、先端教育への取り組みに力が入る。今年4月に新設した教育支援センターでは、英語教育やアントレプレナーシップなど、リーダー層を担う子どもの育成に向け研修を行う。ICT(情報通信技術)教育にも力を入れ、区内の公立小学校52校すべての教室に電子黒板を完備した。1校あたり年間リース代は約130万円。来春には全公立中学校にも入る予定だ。
だが、取材の中で貧困を抱える子どもたちと接するうちに、限られた税金の使い方として有効なのかと疑問が湧いた。
●授業崩壊、勉強は塾で
学校現場では、経済格差が意外な問題を引き起こしている。
板橋区内の公立小学校5年生の亜子さん(仮名・11歳)は、算数の宿題をしながらこう不満を漏らす。
「あ~まただよ。こんな公式、まだ習ってないもん」
最近、学校の授業が成立していないという。クラスメートが床に寝そべったり、勝手に教室を出ていったり、教師が誰かを注意している隙に別の誰かが何かし始めたり……。その結果授業が遅れ、宿題には習っていない範囲が出されるのだという。そんな振る舞いをするのは決まって、学習塾に通っている子だ。
「塾に行ってるから授業を聞かなくても良い点数が取れるんだよ。金に頼りやがって」
そう文句を言う亜子さんに、中学生の兄が注意する。
「塾に行ってるからっていいわけじゃないよ。大切なのは予習と復習をしっかりすること」
妹を励まし、算数の公式を教える。目下の悩みは、学校の影響なのか、妹の言葉遣いが“ヤンキーっぽく”なってきたことだと苦笑いした。