『Action! 15 Cult Movie Classics』
『Action! 15 Cult Movie Classics』
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 今年の春に出した『ローリング・ストーンズ解体新書』(廣済堂出版)という新書で、イギリスの音楽雑誌モジョやアンカットに付録としてついている企画CDを何枚か紹介した。一般に販売されているCDと同等に扱ったことに違和感があったのか、あるいは「付録」という性質上、雑誌が店頭から消えると同時に付録CDも消えるという先入観があるせいか、この試みはあまり共感が得られなかった。
 ぼくは、すでに一般に販売されているCDと付録CDそしてCDというかたちになっていない音源も含め、すべて同等・同価値とみている。逆にいえば、いまではそれらを線引きする理由はなく、また線引きしなければ困るということもない。それよりなにより付録CDは、雑誌発売後は一人歩きして、あらゆるサイトで通常かつ適価で購入できるようになっている。さらにもっと現実的なことをいえば、市販されているCDであれ付録CDであれ、その気になればネット上でタダで聴くことができる。いまやその差はないと考えるのが妥当というものではないだろうか。

 ぼくがいちばん好きな付録CDは、モジョに毎号ついているCD。選曲もジャケットもすばらしいが、なによりも視点が最大の魅力。なかにはありふれたものもないわけではないが、これまでのところ打率は軽く8割を超えている。一方のアンカットもがんばっているが、ジャケットがイマイチなものが多く、いわゆる「付録」の域を超えていないものが目立つ。それでも最近はがんばっているが、やはりモジョには及ばない。
 モジョの4月号はカルト・ロック映画特集で、それに合わせて『アクション!15カルト・ムーヴィー・クラシックス』という付録CDがついていた。モジョが優れているのは、この付録CDが、たんに特集に合わせた安易なものではなく、特集記事を補足、拡大するものになっていること(この点でもアンカットとちがう)。
 以下に『Action! 15 Cult Movie Classics』の収録アーティストと収録曲を挙げておこう。付録としてはもちろん、一般のコンピレーション盤としても優れていると思う。すでに雑誌は店頭にないが(この原稿を書いている時点の最新号はローリング・ストーンズ、そしてストーンズ関連の秀逸な付録CDがついている)、ネット通販サイトで手に入れることができる。

1. John Barry Orchestra - Beat Girl
2. Clinic - If You Could Read Your Mind
3. Rodriguez - Crucify Your Mind
4. Bobby Womack - If You Don't Want My Love (Give It Back)
5. Curtis Mayfield - Pusherman
6. Ricky Nelson - Lonesome Town
7. Ennio Morricone - Muchio Selvaggio
8. Daniel Johnston - Some Things Last A Long Time
9. Billy Green - Stone Is A Trip
10. Broadcast - Our Darkest Sabbath
11. Brian Jonestown Massacre - Super-Sonic
12. The Last Poets - Wake Up Niggers
13. Don Gere - Werewolves On Wheels
14. Arthur Russell - Soon-To-Be Innocent Fun/Let's See
15. David Lynch & Alan R. Splet - In Heaven (Lady In The Radiator Song)

 最近気になるといえば、ブートレグ(非公式未発表ライヴ音源)だが、ザ・バンド解散後のリック・ダンコ、リチャード・マニュエル、ガース・ハドソンがジャコ・パストリアスと共演したライヴがおもしろかった。タイトルは『ローン・スター・カフェ1985』で、マイルス・デイヴィス関連の未発表音源で知られるソー・ホワット・レーベルから発売された。最初に収録曲を書いておこう。

1. Mystery Train
2. You Don't Know Me
3. Keep Loving Me
4. Just Another Whistle Stop
5. My Love
6. King Harvest
7. Caledonia Mission
8. Georgia On My Mind
9. The Weight
10. Honest I Do
11. Blaze Of Glory
12. Turn On Your Lovelight
13. God Bless America
14. Oh Canada

 録音は1985年1月6日、ニューヨークのヴィレッジにある「ローン・スター・カフェ」で行なわれた。いかにも「ザ・バンドな」選曲だが、ジャコが入っているのは最後の5曲と、ザ・バンドのファンにもジャコのファンにも「ちょうどいい案配」になっている。すでに大量の、しかもそのほとんどが無残ともいうべき姿を捉えたジャコのライヴ音源のなかになって、このライヴはちょっと別格といってもいいのではないか。
 ぼくの興味は、ロビー・ロバートソンが語っていた次のような発言に起因している。
 「ジャコ・パストリアスは、リック・ダンコのベース奏法を盗むために、よくザ・バンドのコンサートに来ていた」
 やはりそうだったかと、ぼくは思わず膝を打ったが、ジャコのフレットレス・ベースは明らかにリック・ダンコのある要素を拡大したものに聞こえる。ただしこうした真実あるいは仮説に近づくためには、ザ・バンドに対する一般的なイメージに惑わされることなく、ザ・バンドを一流のスタジオ・セッション・ミュージシャンの集合体による「フュージョン・バンド」として認識する必要がある。つまりザ・バンドとは、土着的な田舎くさい集団ではなく、都会的に洗練された、あのスタッフやジェントル・ソウツのような要素もふんだんに内包したグループなのです。なお、ぼくはキース・ジャレットに最も大きな影響を与えたミュージシャンは、ジョン・コーツではなく、ガース・ハドソンではないかとみているが、この件については改めて書きたいと思う。[次回7月16日(火)更新予定]