介護は中高年から直面する問題だと思われがちだ。だが、青春時代を介護に奪われてしまう若者もいる(※イメージ)
介護は中高年から直面する問題だと思われがちだ。だが、青春時代を介護に奪われてしまう若者もいる(※イメージ)
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 介護は中高年から直面する問題だと思われがちだ。だが、青春時代を介護に奪われてしまう若者もいる。

 16歳から24歳までの約8年間。井手大喜さん(30)の青春の中心にいたのは、父親だった。脳梗塞で倒れた父が認知症になり、介護が始まったのは、井手さんが高校1年生のときだ。

 父は地方公務員、母はパートというごく平均的な家庭。姉には障碍(しょうがい)があった。特別養護老人ホームには空きがない。有料老人ホームは経済的に厳しい。母はヘルパーなど他人を家に入れることを拒んだ。

 食事・排泄・入浴の介助、すべてを母と息子の二人三脚で行う日々が始まった。認知症に加え、脳梗塞の後遺症で左半身麻痺になった父親の介護は、気力も体力も奪っていく。父のたばこの火の始末を気にしながら浅い眠りにつき、眠い目をこすって授業を受けた。学校から帰り、家中につけられた排泄物に唖然とした日もある。父に夕飯を食べさせてから、すっかり冷めた食事を、階段に腰掛けてかきこんだ。すでに食事を終えた父に「メシはまだか」と聞かれるからだ。学校に行く時間を確保するのが精一杯で、所属していたアメリカンフットボールのクラブチームをやめた。プロ選手としてNFLで活躍する。そんな憧れ続けた夢を失った。

 チャイムが鳴れば解放される学校と違い、介護に休みはない。アメフトの夢は断たれたが、だからこそ大学進学だけは諦めたくないと必死で受験勉強をした。介護と勉強で慢性的な睡眠不足。加えて、眠くならないようにと食事を控えたため、明治大学に晴れて合格したときには、体重が16キロも落ちていた。

 介護中心の生活は、大学生になっても続いた。ある日、家のポストに消印のない手紙が届く。

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