あのまくしたてるような口調でしゃべられると、中国人って、もしやいつも怒っている?と、感じる日本人は多いもの。当然そんなことはありません。いったい何が笑いのツボなのか、探ってみた。
北京で日本語を教えるカリスマ教師の笈川幸司さん(45)は、いま日本を代表する笑いは「嵐」だという。アエラが中国人に行ったアンケートでも、「嵐の番組を見たら間違いなく爆笑」「『嵐にしやがれ』など日本語がわからなくても笑える」などの感想が多数あった。
元漫才師という経歴の笈川さんは、中国の若者が嵐に惹かれる理由を、中国社会がかかえるストレスと無関係ではないと分析する。以前笈川さんが中国の超トップ校、清華大学で教えていた際、優秀な教え子が人を見下したり、ストレスから窃盗を働いたりすることにショックを受けた。笈川さんは言う。
「本質的な優しさに基づく笑いを中国の若者は求めている。嵐は笑いもとるし、オシャレでカッコよくて礼儀正しく、お年寄りに優しい。人を辱めずに面白いことが言えて、自虐もできる。こうした振る舞いが、中国の若者にはすごくステキに映るんでしょう」
ところ変わって、北京から上海に渡ると、同じ中国でも、笑いは一変する。
政治都市・北京では政治や世相を皮肉る言葉遊びの笑いが好まれるのに対し、商業都市・上海では、生活に密着した笑いがキモだ。上海では、「給料いくら?」が挨拶代わり。上海人はとにかくリアリストだ。
上海歴15年の日本人コンサルタントが言うには、中国人の友人の親戚の集いに参加した時、2時間ずっと、誰それの給料はいくら、年金はいくら、と金、金、金のオンパレードの話題にどっぷり浸った。これは上海人の間ではごく普通のことらしい。ここまでけれん味なく金の話が続くと、もう笑うしかない。もちろん彼らは大真面目だ。
株価が乱高下する中国社会。経済がいつマイナス方向に振れるかわからない状況下、短期間で少しでも財産を得たいという焦りにも似た心境は、関心を金へと向けさせる。上海ではそれが、もっともストレートに出るのだ。
※AERA 2015年10月5日号より抜粋