美しさを追い求めるリケジョがいる。彼女らが関わった大ヒット化粧品の開発の背景には、女性ならではの感覚と専門知識が生きている。
富士フイルム医薬品・ヘルスケア研究所で化粧品の開発に携わる田代朋子(38)は、10年前まで、インクジェット用紙に使う「色あせしない酸化防止剤」の研究に従事していた。
静岡県富士宮市の有機合成化学研究所に配属されたが、2004年に長女が生まれ、育休明けに現在の部署(当時の勤務地は埼玉県朝霞市)へ異動。待ち受けていたのが、「エイジングケア化粧品」の開発という、かつてない試みだった。
全社の売り上げの6割を占めていた一般写真関連事業は、デジカメの登場で下降線をたどり、業務の多角化を図るなかで浮上したのが、化粧品の分野だ。
田代らが手がける「アスタリフト」シリーズの主成分「アスタキサンチン」は、活性酸素を消去する能力がある。写真の色あせを防ぐ長年の研究で培われた、20万種もの化合物ライブラリーをはじめとした知見から選定された。
この成分を肌の奥まで届けるには、粒子をナノレベルに小さくする必要があったが、そうすると、酸素による分解を受けやすくなる問題があった。成分の酸化防止が必須だった。
酸化防止剤は、田代が入社以来扱ってきた分野であり、化粧品に使える安全性が高い酸化防止剤を探索した。化粧品の場合、使用時の感触なども重要で、伸びのよさ、しっとりした感触といった「使い心地」がよくないと、いくらよい商品でも使い続けてもらえない。だからこそ、女性である自分が真っ先に肌につけてみて、納得がいくまで、改良に改良を重ねた。