アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は住友商事の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■住友商事 建設不動産本部ビル事業部 神田街づくり推進チームリーダー 平松潤一(47)
下町の手触りが残る神田は、都心に残された数少ないフロンティア。路地裏のレトロモダンなビルや木造家屋が、センスのいい店主たちの視線をひきつけ、個性のある新しい店が増えている。平松潤一は、そんな街と並走する気構えでいる。
地下鉄の神保町駅から徒歩2分。地上17階建ての複合ビル「テラススクエア」(東京都千代田区神田錦町)は、住友商事の神田再開発の「要」になる。1930年竣工の博報堂旧本館とその周辺を再開発する一大プロジェクト。平松は、建設中のビルを見上げて言う。
「もはやスペックだけを競う時代ではないんです。頭打ちに近づいてきている」
かつての不動産開発は、「いい場所に、いい建物をつくればそれでよし」だった。いまは、そうではない。何で差をつけるのか。ヒントは「建てた後」にある。
「ここで働きたい、住みたい。人にそう感じてもらえる効果を街にもたらすことが、いまの物件には求められている。ビルが一つのハブ(結節点)になり、街全体の人の流れを活性化させないといけない。建てた後、街と一緒に伸びていかないと意味がないんです」
京都大学工学部卒。90年に入社し、不動産開発一筋できた。大阪勤務が長かったが、2005年に東京へ異動。しばらく「仕事のネタ」がなかった。そんなところに先輩社員が「一緒にやらないか」と誘ってくれたのが、住商が20年来、挑んできた神田再開発のプロジェクトだった。
6年前に再開発のゴーサインが出て、土地の取得から建築、テナントの誘致まで奔走してきた。20年来の社の努力がいよいよ実る。予定では15年3月に完成するのだ。
「この物件が自分を大きくしてくれた」
思いの詰まったテラススクエアは、きっと神田の街とともに歩むのだろう。そう思うと胸にこみ上げるものがある。(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(編集部・岡本俊浩)
※AERA 2014年12月15日号