アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は大江戸温泉物語の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■大江戸温泉物語 浦安万華郷 企画広報課 課長 井上悟(41)
南アフリカから取材にきた国営テレビのスタッフは、目を丸くして驚いた。無理もない。大滝の流れる岩山洞窟風呂を人工的につくる。LEDでお湯を5種類に染める……。こんな発想をする国が、ほかにあるだろうか。
千葉県浦安市にある温泉リゾート「大江戸温泉物語 浦安万華郷」。敷地面積1万坪のなかに、25種類もの風呂がある。この巨大な温泉施設を運営するのは、全国で温泉旅館など30施設を経営する「大江戸温泉物語」(本社・東京)だ。
企画広報課の課長、井上悟は、どんな季節限定の風呂にしようかと、いつも頭をめぐらせている。ワイン色のコラーゲン成分を溶かしこんだ湯は、美容に敏感な女性客をとりこにした。
水着で入れる自慢の「水着露天ゾーン」は、娯楽性を追求した風呂の数々が人々を驚かせる。客足が鈍りかねない夏、井上は「プールに負けないように」と、このゾーンの一部をプールに仕立てた。水面に大量のゴムボールを浮かべ、すべり台も設置。人気のプール施設並みに客がつめかけた。
2007年、別の温泉施設から転職した。企画力を期待されての入社だが、駒澤大学の学生時代から仲間との温泉めぐりを趣味にしていたというから、いまの仕事は“天職”ともいえる。休みの日は家族総出で各地の温泉をめぐり、これまで入浴した温泉は約300カ所にもなる。
浦安万華郷では、風呂の「品質」をチェックして回る。湯の温度が0.5度違うだけで、湯船につかる時間が変わる。季節に応じてベストな湯温を導き出すのも、井上に託された大切な仕事だ。
「癒やしである以外は、健康増進からレジャーづかいまで、十人十色。だからいい」
温泉は、癒やしがつなぐ民主社会なのだ。(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(編集部・岡本俊浩)
※AERA 2014年12月8日号