AERA2015年3月2日号 表紙のシャア・アズナブルさん
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AERA2015年3月2日号 表紙のシャア・アズナブルさん
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 誰もがうらやむ才能を持ちながら、陰のある男。人気アニメ「機動戦士ガンダム」のキャラクター・シャア・アズナブルのことだ。でも、そんな男の女性遍歴は、必ずしも幸福ではない。むしろ、哀(かな)しさに彩られていた。

 シャアにとって生涯忘れられない女性といえば、ララァ・スンだろう。シャアはこの少女に入れ込み、パイロットに引き上げ、恋愛関係にもなる。21歳でできた、初の恋人だ。特別な存在である彼女のことを、コミック23巻でこう語っている。

「私の母になるべき女(ひと)だったのだ!」

 でも、幸せは長く続かない。超常的な感覚をもつ彼女は、あろうことか、シャアのライバルと特別な関係になってしまう。意識の交信だけでアムロ・レイと「わかりあって」しまったのだ。やがて、決定的な破滅がやってくる。彼女は、シャアとアムロの決戦に巻き込まれ、散る。機体は爆散。ララァは2人の間を漂う意識の塊と化し、彼らを苦しめるのだった。

 初恋の相手が、一生涯のトラウマ。その後の恋愛は、「割り切ってしまった」感が強い。20代後半、反地球連邦の運動に身を投じていたころ、同じ組織のレコア・ロンドと恋愛する。レコアは一見、強い女性。ただ、心の底では「癒やし」を求めていて、戦争はそれを達成するための手段でもあった。

 問題を抱えていることを知っていたのかどうか、彼女にシャアが求めたのは「割り切った関係」。それこそが悲しい結末につながる。シャアへのあてつけで、彼女は敵対勢力に寝返ってしまう。かつての仲間と刃を交えるなかで、最期の台詞が胸に刺さる。

「男たちって、たたかいばかりで、女を道具にしか使えないんだから!」

 30代前半のシャア。最後の恋人はナナイ・ミゲルだった。ナナイは、ネオ・ジオン軍の作戦参謀などを務める「できる女性」。これまで交際してきたタイプとは異なる、「成熟した」女性だった。自らが指揮した第2次ネオ・ジオン抗争で、シャアはこう告げる。

「作戦が終わったら、ナナイの言うとおりにする」

 でも、彼が帰ってくることはなかった。地球軌道上で繰り広げたアムロとの激戦の末、作戦中に消息不明になってしまったのだ。

AERA  2015年3月2日号より抜粋