風邪やインフルエンザのウイルスが猛威を振るうこの季節、じわじわと人気が高まっている食べ物がある。焼きりんごでも焼き芋でもない、「焼きみかん」だ。大手レシピサイト「クックパッド」で検索すると、60件以上のレシピがヒット。「焼きみかん」がレシピ検索された頻度は2013年から14年にかけて1.6倍、昨年から今年にかけては3.9倍と大幅に伸びており、注目度がうかがえる。
基本的な焼きみかんの作り方は、いたってシンプル。いつも食べているあの(温州)みかんをストーブの上やガスコンロ、もしくはトースターなどで焼くだけ。上下を返しながら皮のまま7~10分ほど、軽く焦げ目がついたら完成だ。みかんは火にかけると次第にしわが伸びてぷっくりと膨らむ。
表面に焼き色がつくころには、キンカンや焼き芋のような甘くこっくりとした香りが漂い、アツアツの実を口に入れてみるとその甘みは何倍にも感じられた。熱を加えることによって酸味が和らぎ、ジャムのようなちょっとしたスイーツへと変貌を遂げるのだ。
この焼きみかんは、みかんの産地や東北地方など一部の地域を中心に、「焼いたネギを首に巻く」のと同じく、風邪の引き始めに効く民間療法として広く定着しているという。そもそもこの民間療法はどこからきたのか。
世界遺産の熊野古道があることでも知られるみかんの一大産地、三重県御浜町では、古くから焼きみかんが食べられていた。同県四日市にある萬古焼(ばんこやき)の卸会社、佐治陶器では、焼きみかん専用の陶器「御浜の焼きみかん」を15年ほど前から販売している。同社が三重県などと共同企画して売り出したところ話題に。インターネットでの通販を始めるとすぐに売り切れる人気商品となった。現在は新デザインの専用器開発に取り組んでいるという。
「品種改良が進む前のみかんは今のように甘くなく、青くて酸っぱいものばかりだった。そのままでは食べにくかったみかんを焼くことで、少しでも甘くして栄養を取ろうとしたのでは」(佐治卓弥社長)
※AERA 2015年2月23日号より抜粋