これから企業や社会で求められるのは、新しいものを生み出す「デザイン力」のある人材。東大ではそうしたニーズに応えたワークショップが行われており、学生からの人気も高いという。
「移民が増える」「ロボット社会」「大地震が起こる」…。東京大学の教育プログラム「i.school (アイスクール)」のワークショップ(WS)で、小グループに分かれた学生が議論をしていた。「未来はどんな社会になっているのか、シナリオを想定。そこでは何が深刻な問題か、それをソーシャルビジネスで解決する」という課題だ。
アイスクールは、こうしたWSなどを通じて、困難な状況でも創造的な課題を設定して、解決するアイデアをデザインできる人材の育成をめざし、2009年にスタートした。インド工科大学と共同でインドの未来を洞察するWSや、海外の学生とともに日本のサブカルチャーをもとにビジネスを考えるWSなど活動は多彩だ。
このようなプログラムは欧米で始まり、近年日本にも広まりつつあるが、その形式や呼び名はさまざまだ。日本での草分け的存在である東大のアイスクールの場合は、学生にとっては単位にならないのに、人気は非常に高いという。
「ほかの授業では技術を学ぶ。自分には情報技術があるので、人間が幸福になるために使いたい。それには、アイデアが大切だということをここで学んだ」と、大学院生の風間正弘さん(23)は話す。
アイスクールの活動で出たアイデアから実際に事業化されたのが、NPO「モチベーション・メーカー」だ。子どもに自発的に考える場を提供する。特にひとり親などで、キャンプや博物館に行く機会が少ない子どもが、いろいろな大人に会って体験する場を作ることをめざす。
「自分のやる気に自分でスイッチを入れるきっかけとなれば」と、アイスクール修了生で代表理事の横田幸信さん(34)。大学院で材料科学を学んだが、「論文を書くよりビジネスで成功するほうがインパクトがある」と思っていた。企業のコンサルティングやアイスクールのディレクターも務める。
※AERA 2015年1月26日号より抜粋