ソニーの映画子会社に対する大規模なハッカー攻撃は、赤字転落などに揺れる「世界のソニー」にさらなるダメージを与えた。なぜ、ここに至ったのか。(ジャーナリスト・津山恵子)
「このテレビの薄さは、わずかクレジットカード5枚分です」(カナダ・モントリオールのテレビ局)
「1セント硬貨の3枚分しかありません」(メキシコのテレビ局)
1月6日から米ネバダ州ラスベガスで開かれた全米最大の家電市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」の一角にある、ソニーのブース。世界で最薄の4Kテレビがずらりと並び、各国テレビ局がリポートしている。
ステージの中心でテレビが1台、ゆっくりと回転する。来場者に向かって垂直に向いて、薄さ4.9ミリのフレームが見えた瞬間、カメラのフラッシュが一斉に放たれる。
ソニーのブースは、ほかの新製品も充実し、明らかに例年より活気に満ちていた。しかし、その舞台裏は、大変な修羅場だったに違いない。
●カズが出るのが1カ月遅すぎた
昨年11月末、ハッカーが子会社ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)のシステムを攻撃し、同社の情報や文書が大量に流出した。ハッカーは、SPE制作で北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)第1書記の暗殺計画を描いたコメディー映画「ジ・インタビュー」を攻撃の理由にあげ、ソニーは大手映画館チェーンでの全米公開を見送った。しかし、この決断は、「言論の自由」を重んじる米国で、オバマ大統領をはじめメディアなどから激しく糾弾された。
ソニーは12月末、オンラインでのレンタル・販売や、500館超の小劇場での限定公開を決定し、批判を逃れた。
「『ジ・インタビュー』は独創的な映画だ。社員とパートナーたちは、卑劣なハッカーの攻撃に立ち向かい、この映画をファンに送り届けた。彼らを誇りに思う」
平井一夫社長兼最高経営責任者(CEO)は、CESに先立つ記者会見の冒頭にこう述べた。
ハイテクニュース専門サイト「CNET」総合編集長のティム・スティーブンス(36)は、「カズ(平井社長)が出て来るのが1カ月遅すぎた」と指摘する。
「ハッカー攻撃については、もっとリーダーシップを発揮してほしかった。米国人は、コミュニケーションを重んじる。こういう時は、真っ先にカズが出てきて、被害の程度や今後の方針を説明しなくてはならない。記者会見での発言も不十分だ」
実際にSPEは、ハッカーが映画を公開する映画館の攻撃をほのめかした際、「公開するかどうかは映画館が判断することだ」と丸投げした。
●なぜか根強いソニー製品信仰
リーダーシップの欠如や消費者とのコミュニケーション不足は、米国では、株価に直接響く大きな不祥事だ。
「ソニーは間違いを起こした」
と、オバマ米大統領は年末の記者会見で発言した。大統領が、一民間企業の固有名詞を記者会見でこんなに連呼したのは、2009年、オバマ政権が経営破綻したゼネラル・モーターズ(GM)など自動車メーカー2社を救済した時以来、あまり記憶にない。
消費者もジャーナリストも、ソニーにかなり失望したのは間違いない。ハッカー攻撃の直後、株価は2ドル超急落した。
しかし、ソニー製品への「信仰」はなぜか根強い。