後を絶たない、電車内などでの痴漢行為。加害者の心理には何が働いているのか。
大阪にあるカウンセリングオフィスAXIAの衣川竜也代表は、加害者をこう分析する。
「共通点は、ストレスを自覚しないほど抱え込む性格。またパートナーなど同年代以上の女性全般に対して『怖い』という感情を持つ傾向も強い。そのため、加害者自身が恐怖心を感じにくい女子高校生がターゲットになることも多い」
性犯罪者やその予備軍を専門的に治療する民間団体「性障害専門医療センター」(SOMEC)は、外来治療によって加害者と向き合っている。福井裕輝代表理事は性犯罪被害者のカウンセリングをしていく中で、「被害者の心を癒やすには加害者へのアプローチも必要」だと考えたのだ。
痴漢の加害者である会社員のタナカさん(男性、50)は「もし治るのであれば治したい」という思いでSOMECを訪ね、月2回のグループカウンセリングに1年間通った。1回1万3千円のカウンセリングでは、自分の気持ちをメンバーに話したり、加害者役、被害者役をロールプレイする様子を撮影した動画を見てメンバーと話し合ったりすることで、被害者の感情を学んでいく。プログラムを終え、こう話す。
「今は女性がどれほど恐怖を感じていたか想像できるようになり、自分がしたことの重大さに押しつぶされそうになる時もあります」
会社員のスズキさん(男性、20代後半)もこのカウンセリングを通じ、被害者へ自分がどんな影響を与えていたのかを理解できるようになった一人だ。
「悪いことだと分かってはいるし、痴漢行為をしても特に満足感もないのに、続けてしまう。いっそのこと、病名があるなら診断されたいと思った」
SOMECに通い始めた頃は、自分の気持ちにすら鈍感だったという。
「最初は『今、どんな気持ちですか』と聞かれても分かりませんでした。『今まででつらかったことは?』と聞かれても、何も浮かんでこないんです」
電車内にいる女性のことも「生き物ではなく、どんなことをしてもいい、意思のないぬいぐるみのような認識」だった。カウンセリングを通して自分の意識を掘り下げて半年ほど経った頃、やっと「なぜ痴漢をしてはいけないのか」が自分の腹に落ちた。
※AERA 2014年12月22日号より抜粋