

経団連による「倫理憲章」の改定で、2016年4月入社の就職活動は、例年より3カ月も後ろ倒しに。まだまだ先、とぼんやりしている学生も多いようですが、見えないところで戦いは始まっています。(編集部・直木詩帆)
12月上旬のとある水曜日。ちょうど昼どきに、東京・渋谷の焼き肉店で、転職サイトなどを運営するビズリーチ(渋谷区)の取締役、新入社員、内定者が、2016年4月の入社を目指す大学3年生4人と大学院1年生1人と共に焼き肉を囲んでいた。
「ビズリーチって聞いたことある?」
「社長の本を読みました」
「他のベンチャー企業でインターンをする中で知りました」
ビズリーチの担当者がひと通り自社について説明すると、今度は学生から質問が飛ぶ。
そこへ、大きな肉の塊が!
学生たちは大歓声を上げて一斉にスマホを構え、あっという間に撮影大会状態に。SNSにアップするようだ。
●表向きは「超短期決戦」
これは、「ニクリーチ」と名づけられたれっきとした採用活動。学生が専用サイトに登録すると、ビズリーチが会いたい学生に声をかけ、焼き肉を食べながら会社について説明する。場合によっては、採用フローに乗せることもある。
ニクリーチを初めて導入した15年入社の採用活動では1100人の登録者のなかから、フリーコメント欄が面白かった学生を中心に300人を呼んだ。友人を連れてきた学生もいたため、結果的に800人と焼き肉を食べたという。
竹内真取締役兼CTOは言う。
「当社は転職向けのサービスが中心の会社なので、学生への認知度はまだまだ低い。優秀な学生に当社の存在に気づいてもらいたくて始めました」
スタート当初は物議もかもしたが、学生とじっくり話すことができ、結果的に、15年4月入社予定の内定者の半数近くはニクリーチを経由していた。
今年はこのサービスを他社にも開放。すでに30社が参画を表明している。そのひとつで、印刷サイトなどを手がけるラクスルの河合聡一郎人事・労務グループマネージャーは言う。
「この時期にニクリーチに登録している3年生は、ITへの親和性と情報感度が高い。まずはインターンをしたいというエンジニア志望の学生にアプローチしたいと思っています」
経団連が倫理憲章を改めて「採用選考に関する指針」を定めたことで、16年4月入社から、新卒採用に関するスケジュールが大幅に後ろ倒しされた。会社説明会を開くなどの広報活動は、大学3年生の12月解禁から3月解禁に、面接など具体的な採用選考の開始は4年生の4月から8月にずれこんだ。
表向きは、8月に選考を始めて10月に内定式という「超短期決戦」。だが、冒頭のケースのように、個別に学生と接触する企業が続出し、企業の動きは例年以上に早まっている。『就活「後ろ倒し」の衝撃』(東洋経済新報社)の著者で人材研究所代表の曽和利光さんは言う。
「経団連の指針を守っていては、非加盟の企業や外資系企業にいい人材を先に採用されてしまいかねない。そもそも、『8月から採用選考を始めていては間に合わない』と考える企業も多い。多くの企業がリクルーターやインターンシップ、大学主催のセミナーなどを利用して、早い時期に学生と接触せざるを得ない状況になっています」
●右端を折って目印に
かくして、インターン・バブルともいえる採用・就活戦線が幕を開けた。
リクナビの就活準備サイトが掲載したインターン募集数は前年の2倍。日本大学理工学部就職指導課の鎌田文一課長補佐も言う。
「本学の3年生に対する今年4月から12月までのインターン募集数は前年比2.2倍にのぼります。10月に3年生に会いにきたリクルーターもいた。後ろ倒しが前倒しを呼ぶ皮肉な結果になっているのです」
秋以降は1日だけの「1DAYインターン」も増加し、実質的な会社説明会だったり採用活動の入り口になっていたりするものも多い。人事関係者によるとある金融系の企業では、インターン終了後のアンケートを、担当者がすべての席を回って手渡しで受け取っていた。目を付けた学生のアンケートの右端を折って、後々わかるようにしておくためだ。
左の表にあるように、企業はあの手この手で採用活動に工夫を凝らしている。冒頭のニクリーチはその代表例。受け入れるインターンの数を大幅に増やした楽天には、マサチューセッツ工科大学やスタンフォード大学からも学生が参加した。LINEの「月給40万円支給」も話題になった。
LINEのHR担当執行役員、落合紀貴さんは言う。