「その気持ち、わかる~」
還暦を前にしたシンガー・ソングライター、竹内まりやの人気がすごい。同年代はもちろん、20代もハマっている。デビューから36年。幅広い世代がハマる魅力はどこにあるのか。(編集部・野村昌二)
前作から7年。竹内まりや(59)が9月に出したアルバム「TRAD」が、売れている。累計出荷が30万枚を突破した。
「気持ちが高まったり、ジーンときたり。ノリノリの曲だと、すごくウキウキしてきます」
と楽しそうに語るのは、三重県に住む加藤直美さん(53)。46歳だった7年前、テレビから流れてきた「人生の扉」を聴いて、しびれた。歌詞は、「But I feel it’s nice to be 50(でも、私は50歳になるってすてきだと思う)」などと、年を重ねることの喜びをつづる。
年をとることにはマイナスイメージしかなく、誕生日が来るのがイヤだった。でも「人生の扉」を聴いて、年齢を重ねるほど人生に深みが出ると捉え直した。「その気持ち、わかる~」と、腑に落ちたという。以来、自分より少し先の人生を歩く竹内まりやが「憧れの存在」だ
●「三人称」で普遍的に
デビューから36年。常に全速力で走り続けているわけではないけれど、折節にビッグヒットを放ってきた(年表)。
会社員の村田ただしさん(52)は、そんな彼女を「同志」と呼ぶ。高校生の時に「不思議なピーチパイ」などを聴いてファンに。後に妻となる女性と付き合い始めた1984年にはアルバム「VARIETY」が、結婚した87年にはアルバム「REQUEST」が発売された。
「僕の人生のサウンドトラックが、まりやさんの音楽でした」
ロッキング・オン社長で、音楽評論家の渋谷陽一さんは、
「竹内まりやは『三人称的表現』に優れたアーティストだ」
と評する。通常、シンガー・ソングライターは思想やメッセージを「私は」「僕は」などと一人称で表現することが多い。それが聴く人の共感を呼ぶのだが、竹内まりやの歌詞には「彼は」「彼女は」などの三人称が多い。
「竹内まりやさんの歌を聴いて、彼女の個人的なライフヒストリーや彼女自身のパーソナリティーとオーバーラップすることはないと思います。恐らく、それが彼女の表現活動の基本だと思うのですが、日本のシンガー・ソングライターでは非常に珍しい。その立ち位置が、彼女の歌を普遍的なものにしている」(渋谷さん)
だからだろうか。ずっと年下の20代の若者も、歌詞に共感している。
●だから元気でいられる
女性3人のアイドルグループ「平成琴姫」のメンバー加藤唯さんは、
「竹内さんは元気の源。心の支えです」
と、声を弾ませた。2年半前、オーディションに合格して上京し、一人暮らしを始めた。アイドルの世界は浮き沈みが激しい。ステージで失敗したり、ファンに「歌唱力が落ちたね」などと言われたりして、落ち込むことも少なくない。そんな時、竹内まりやに励まされる。
一番好きな曲は、「幸せのものさし」。「どんな道を選んだとしても 悩みの数 同じだけついてくる」という歌詞を聴くたびに思う。
「いま自分は夢だったアイドル活動ができている。この道を選んで、間違いなかった」
竹内まりやの歌がなかったら、毎日こんなに元気でいられない。
今回のツアーは、実に33年ぶり。加藤さんのような新しいファンも、「生まりや」に会える。
※AERA 2014年12月1日号