ライトアップされた東京タワーの鉄骨の間にのぞく満月。東京タワーは、満月の夜だけ上部のライトアップをやめて、月を愛でやすくするという粋な計らいもしている(撮影/伊ケ崎忍)
ライトアップされた東京タワーの鉄骨の間にのぞく満月。東京タワーは、満月の夜だけ上部のライトアップをやめて、月を愛でやすくするという粋な計らいもしている(撮影/伊ケ崎忍)

 今年3度目のスーパームーンとなった9月9日、気がつくとフェイスブックのタイムラインが、月の写真で埋まっていた。

 ビルの谷間に輝く月、ディズニーランドを照らす月、ブレスレットの真ん中に収まる月──。調べると、前日の8日から翌10日にかけての3日間で、「満月」「スーパームーン」という言葉が入ったツイートは50万6千件。世の中は、ちょっとした「月ブーム」のようだ。

 なぜいま人々は、月をつぶやくのか。フェイスブックに月をアップした男性(36)はこう話す。

「中秋の名月だったので記録に残したかった。いつの時代も地球を照らしつづける月には不思議な思いを感じる。心に働きかけるものがあるのか、撮影しながら気持ちが安らぎました」

 ソーシャル・メディアを活用したPR戦略に詳しい、ブルーカレント・ジャパンの本田哲也社長によれば、ソーシャル・メディア時代のプロモーションで大切なことは、「シェアのしやすさ」と「同時多発性」だ。

 月を知らない人はいないし、天気には左右されるものの、空を見上げさえすれば基本的にどこにいても見ることができる。スマートフォンさえあれば撮影もシェアも簡単だ。多くのことはわざわざどこかに出かけなければ見たり体験したりできないが、「月を見る」「月を撮る」という行為に関して言えば、ハードルはゼロに近い。その意味で、月は「究極のシェアラブル・コンテンツ」というわけだ。

 日本文学研究者の大輪靖宏さんは、そもそも月は日本人とは切っても切れない存在だと話す。私たちは古くは太陰暦を用い、月の満ち欠けとともに暮らしてきた。前出の男性は月を撮影することで「安らいだ」と話したが、月を愛で、月と共に時を過ごすことは、日本人のDNAに刷り込まれていると言っても過言ではない。

AERA 2014年10月20日号より抜粋