日本の学歴社会の頂点に立つ東京大学医学部で、研究をめぐる疑惑や不正が、次々と発覚している。なにが起きているのか。医学部生が立ち上がった。
6月20日、夏休み前の最後の講義が終わるのを待ち、東京大学医学部6年の岡崎幸治は、勇気を奮い起こし、教壇に駆け上がった。
「不正が立て続けに報じられています。我々学生は何も知らされていない。医療が社会の信頼を失っている現状を、見て見ぬふりしていていいのでしょうか。公開質問状を出そうと思っています。賛同をお願いします」
緊張で言葉を詰まらせながら、同学年の20人ほどを前に、思いのたけを訴えた。話し終えると、何人かの学生が近寄ってきて口々に言った。
「マジかよ」「やって大丈夫?」「効果あるの?」
岡崎には納得できないことがあった。東京大学医学部附属病院の血液・腫瘍内科で起きた“不正”である。
同科教授の黒川峰夫らが研究会をつくって進めた白血病治療薬の副作用を調べる臨床研究で、製薬大手ノバルティスファーマの社員が不適切な関与をしていた。いわゆる「SIGN研究」の問題で、この研究にかかわっていた講師に、岡崎は臨床研修で世話になっていた。指導に手を抜かず、誠実な人柄が印象的だった。医局の仕組みからいっても、講師が勝手にそんな不適切なことをやったとは考えにくい。岡崎は、研究の責任者だった同科科長である黒川に2月3日、メールを出した。