ウクライナ東部2州の住民投票で、独立支持が9割という結果が出た。目前に迫る大統領選含みで、内戦の深刻化は避けられない。

 今月11日に行われた住民投票では、数字の信憑性より、親ロ派の狙いはキエフの暫定政権と欧米への挑発にある。これに対し、欧米は、原因も解決も責任はすべてロシアにあると言わんばかりの批判をするが、むしろ欧米側の手詰まり感が濃い。

 住民投票で不正があったことは当たり前だ。25日にある大統領選でも不正はあるだろう。バルト圏をのぞく旧ソ連で完全に公正な選挙が実施されたことなどない。プーチン大統領が投票延期を呼びかけたのは、ロシア編入を求める親ロ派のプロパガンダがもはや利に合わないからだ。火中の栗は拾わないという一線を画した。編入もロシア軍の東部侵攻も当面はありえない。

 東部とクリミアでは危機の実態が違う。当初はソチ五輪の裏をかき、親欧派が親ロ政権を追い落としたかにみえたがプーチンが上手だった。筋立て通りほぼ血を流さずにクリミアを手に入れた。皮肉だがロシアでの五輪の興奮はここで頂点に達した。

 ロシアにとってのウクライナは安全保障の内堀だ。NATOが暫定政権への支持を示したからには、地勢学上の要衝であるクリミアをまず確保するのが定石になる。クリミアは旧ロシア領で住民の過半数がロシア系だ。これに対し、ウクライナ東部にもロシアの軍需権益はあるが、それよりも西部を含めたより広い地域への影響力を失うことのほうが、ロシアの安全を損なう。

「チェルノブイリはお粗末なソ連製だったが、ウクライナもソ連が粗造した不良品だ」

 ロシアの投稿サイトで反響があった書き込みだ。ウクライナで炉心溶融爆発事故を起こしたチェルノブイリ原発にかけて、ウクライナもソ連が線引きし統制したいびつな国と読み解かせるわけだ。

 いま現在のウクライナの分裂と混乱の原因は、東部も西部も共通する汚職、貧困、経済格差という病にある。親ロと親欧の対決という構図は、大衆を分断し国際世論を巻き込むための後づけにすぎない。腐敗し行き詰まった社会を覆そうとする暴力革命こそが、今回のウクライナ危機の実相であろう。

AERA  2014年5月26日号より抜粋