自作のアプリに、学習ゲーム、同世代の支援事業まで……。
生まれた時から自宅にiMacがあった子どもたちは、デザインもプログラミングも自由自在だ。
軽やかに夢を形にしていく彼らはどこへ向かうのだろう。(ライター・島沢優子)
高校1年生の角南(すなみ)萌さんはこの春休み、東京法務局渋谷出張所でウキウキしていた。15歳以上にならないと交付されない印鑑登録証明書が必要な法人登記を完了し、代表取締役就任。15歳4カ月にしてIT社長になったばかりだ。資本金50万円は、中高生の起業プログラムを推進するライフイズテック社から支援を受けた。最初の商品は「Sparkwall(スパークウォール)」という中高生の授業共有サービスだ。
「自分に合った楽しく学べる授業を探せる。日本でも総合学習などに役立つと思う」
と角南さんは目を輝かせる。
●アプリ甲子園で優勝
アイデアの源泉は自分の経験だ。中学2年の時、学校のディベート大会で時間配分を管理するソフトを検索したが、数字でカウントするタイマーしか見つからなかった。「一目で見渡せるものを作ろう」と思い立つ。約4カ月で作った「見えるプレゼンタイマー」は、中高生対象のスマートフォン向けアプリ開発コンテスト「アプリ甲子園2012」で167作品中1位に輝いたのを機に、5万ダウンロードを突破。ヒットすれば1本数千万円の利益を生む携帯アプリ業界で、「スーパー女子中学生エンジニア」と評判になった。
2012年度就業構造基本調査(総務省統計局)によると、15~19歳の起業者数は全体で800人だが、税金対策などのため個人事業主登記のケースも含まれるので、会社社長の数は不明だ。とはいえ、アプリ甲子園2013には前年大会の約3倍となる合計533作品が応募。10代が力を試す場やサポート環境が整備されつつあるのは確かなようだ。
角南さんが生まれた1998年は、カラフルなiMacが一大ブームを巻き起こした年。彼女の家にもグリーンのiMacがやってきたが、「目に悪いし、電磁波の影響が気になって」(母の亜希さん)さわらせてもらえなかった。
そもそも家より外にいることが多かった。バレエ、ピアノと何でも自分からやりたがり、取り組む集中力もすさまじかった。朝ピアノの練習を始めると、昼食も食べずに弾き続けた。パズルをしても、折り紙をやっても同じように集中した。デジタルとは縁遠い、アナログな幼少期を送ったのだ。
転機は小学2年生。父・明彦さん(44)の海外転勤によりアジア圏で暮らすように。PCソフトで英会話を覚え、3年生でWEBサイトを作った。4年生から住んだ米・ニューヨークでは現地の小学校へ。10歳の誕生日にiMac、クリスマスにiPhoneを両親にプレゼントしてもらった。6年生になると生徒全員にノートパソコンが配布され、各々に学校ドメインのメールアドレスが与えられた。連絡、宿題はすべてサイトから。学習面のサポートも教師から細かくメールで来た。
中学入学を機に帰国。受験を突破し都内の中高一貫校へ入るも、授業スタイルなど環境の違いにがく然とした。日本では教師が黒板に書き一方的に情報を伝えるが、米国では一人ひとりの解釈をITで共有しディスカッションする。授業中盛んに挙手し議論を深めようとするたび、自分が浮いている感覚を味わった。2年からインターナショナルスクールに転校した。
「でも、日本の学校を経験できてよかったと思う。両方知っているのは強みになる」
●高校やめ留学先で社長
海外での経験を日本で生かす10代起業家もいれば、これから飛び出す人もいる。
GNEX代表取締役の三上洋一郎さん(16)は、中高生が中高生のプロジェクト支援を行う「Bridge Camp」を仲間10人と立ち上げた。東京や秋田、中にはアメリカなど世界中からコンタクトがあった五つのプロジェクトを進めている。
例えば、中高生が物事を実現するうえで入手しにくい資金、資材及び場所の支援提供を中心に事業展開。利用にあたっての手数料は基本的に無料とし、コストについては中高生にアプローチしたい企業向けマーケティングやリクルーティングの機会を用意し、スポンサー料を募る。開始するにあたり、周囲の高校生500人に地道に調査し手応えを得たという。
小学3年生から独学でプログラミングのスキルを磨いてきた。私立の中高一貫校で4年間過ごしたものの「残りの2年間をもっと有意義なものにしたい」と今春退学し、留学準備中だ。社長業は留学先でそのまま続ける。
「(社長業は)難しい。周囲に迷惑かけているので、何とか挽回したいです」
学生団体の時期にツイッター上の影響力が測定できる「Cil」などいくつものウェブサービスを開発してきたが、収益に落とし込めてはいない。起業を志す若者を支援するサムライインキュベート社長で、GNEXへ500万円を出資している榊原健太郎さん(39)は、
「三上君は賢くて物おじしないところがいい。30代のオッサンと話している錯覚に陥る(笑)。彼が引っ張っていってほしい」
と期待を寄せる。