「課長 島耕作」と言えば、サラリーマンを描いた漫画の金字塔。主人公の島耕作は、なぜあそこまで順調に出世することができたのか。作者である弘兼憲史さんに話を聞いた。

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「島耕作」シリーズは、今年連載30年を迎え、役職も課長から部長、取締役、常務、専務、社長と上り詰め、今年8月に会長に就任。この男の生き様が、日本の会社員が目指す、ある種典型とも言える。

 耕作がなぜ出世できたかと言えば、数々の転機に翻弄されながら、ひたすら真摯に仕事に打ち込んだから。それを周りが評価して、引き上げた。本人に出世の野望はなく、誠実なので周囲が安心する。キャラが上から好かれた。つまり、人間としてちゃんとしていることが出世の条件。

 出世するタイプには三つの要素がある。段取りがうまい人、何にでもコメントできる人、他人のまねがうまい人。

 段取りがうまい人は、銀座のクラブで飲んでいても、気配りでみんなを楽しませ、帰り時間もきちっとわかっている。コメントができる人は、好き嫌いがなく広い分野にアンテナを張っていてどんな話題にもついていける。それらの要素は、経営者に必要。

 それに、他人のいいとこ取りができる人は伸びる。独自性にこだわりすぎて俺流の人は、プライドが高くて前向きなまねっこができない。柔らか頭を持つことは、上に立つには重要なポイントです。

 その点、耕作は臨機応変。ある方針を出してもダメなら、方針を変える決断力がある。そして決めたらブレない。彼が理想の上司に選ばれるのは、時代の変化についていける柔軟性があるから。現実でも、島耕作タイプの人が出世しているでしょう。

 今の若い世代に聞くと、責任が重く忙しくなるので社長は嫌だという人がほとんど。でも、出世しないと、言われるままで自分のやりたい仕事ができない。中間管理職の課長だと、上に言われたことを部下に伝え、プレーイングマネジャー止まりだからつらい面もある。部長になると裁量権が出てきて、役員になれば会社全体を動かせる。仕事をダイナミックに楽しみたい、自分も大きく成長させたいという人は、やはり出世が必要。

 私の漫画を読んだ人が、出世っていい、というメッセージを受け取って、やる気をもって働いてもらえれば。今は、かつてのような終身雇用、年功序列が守られる時代ではなく、やる気がなければ降格され、いつクビを切られるかわからない時代ですから。

AERA  2013年10月14日号