若い世代の先鋭的なジャズ・ミュージシャンを知るための一枚
Arcades Project/HAVARD WIIK TRIO(JAZZLAND UCCM-1124)

 ノルウェーの人気グループ「アトミック」のピアニストであるヴィークが、やはりノルウェーのバンドである「モーティフ」のリズム隊と組んだピアノ・トリオ作だ。

 もともとエレクトロニクスを大胆に使った「フューチャー・ジャズ」路線で話題を呼んだノルウェーの「ジャズランド・レーベル」は、ここ数年はアトミックを初めとするアコースティックなジャズのリリースが多い。このCDもまったくのアコースティックなピアノ・トリオ作で、電気楽器はもちろん、エフェクターやダブ的処理もまったくないのだが、興味深いのは、「生楽器の音響そのもの」が聴き手の耳に与える「触感」のようなものについて、非常にコンシャスに気を遣っているように思えるところだ。

 たとえばピアノの余韻、たとえばベースの輪郭、たとえばブラッシュでドラムの皮をこするときのニュアンスなどについて、彼らはアドリブ・ソロのフレーズと同じぐらい、いや、ことによったらそれ以上の重要度を与えているのではないのか、とすら思える。

 こうした「音響」に対するこだわりが、エレクトロニカを通過してきた世代の感性であることは間違いないだろう。

 変拍子やポリリズムをごく自然に「当たり前のこと」として捉えている感覚や、ポール・ブレイ~キース・ジャレットなどを継承する思索的なピアノのフレーズ、そしてブラッド・メルドーとも相通じる「文学的」なタイトル(今回のテーマは哲学者ベンヤミンの『パサージュ論』とのこと!)も含めて、ヴィークのこの新作は、若い世代の先鋭的なジャズ・ミュージシャンが何を考え、何をしようとしているかの典型、と言えそうだ。

【収録曲一覧】
1. ARCADES
2. MALACHI
3. WIESEGRUND
4. ODRADCK
5. W.F.W.
6. ENOLOGY
7. PORTBOU
8. ITALICS

ホーヴァル・ヴィーク:HAVARD WIIK(P) (allmusic.comへリンクします)
ウーレ・モッテン・ヴォーガン:OLE MORTEN VAGAN(B)
ホーコン・ミョーセット・ヨハンセン:HASKON MJASET JOHANSEN(DS)

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アーケイズ・プロジェクト/ホーヴァル・ヴィーク・トリオ