銀行内の権力闘争を描いたドラマ「半沢直樹」が40%を超える視聴率を記録し、野心を持って上を目指すことを鼓舞する『野心のすすめ』が40万部超のベストセラーになった。氷河期世代を中心に「出世より、ほどほどに働きたい」という人が増えていたが、少しずつ状況は変わりつつある。
新入社員を対象にした三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると、2004年度から昨年度までは「出世したい」人の割合は4割未満で、「出世しなくても好きな仕事を楽しくしたい」人が多数を占めた。それが今年度の調査では、両者の割合がほぼ半々になった。
だが、出世といっても条件は様変わりしている。人事制度に詳しいジャーナリストの溝上(みぞうえ)憲文さんはこう指摘する。
「今、出世の条件として最も重視されるのはマネジメント力。かつてはプレーヤーとして華々しい業績を残せば出世できたが、今は極端に言えば個人の成績が少し劣っていても、部下の力を引き出し、チームをまとめる力がある人が評価される。グローバル化の中、海外で事業を進めたり、M&Aなどでもともとは違う会社の人材を束ねたり、正社員だけでなく派遣社員や契約社員など様々な立場のメンバーと仕事をしたり、ますますマネジメント力がものを言う場面が増えている」
アエラが30~50代の会社員を中心とする102人に行ったアンケートでも、10年前より出世に必要になったものの1位は「部下の育成力」、出世のために大事な資質のトップは「コミュニケーション力」だった。今、「出世のセオリー」に地殻変動が起きているのだ。
ホテル業界に勤める女性(40)は、かつてなら出世には縁がないと思われた子会社での勤務歴が長い。会社の主力部門は宿泊関係だが、女性は子会社が担当する飲食部門で長く働いてきた。人員が潤沢なわけではない。店舗の新規オープンの際は、予算管理や広報、社内外の調整などを1人でこなした。