採用のピークは一段落したが、人事担当はまだ気が抜けない。次は苦労して選んだ学生を他社に奪われないための戦いが待っているのだ。
ここ数年、苦労して選んで内定を出したにも関わらず、学生に内定辞退されてしまうという事態に陥る企業が増えているという。リクルーター制度などはこの内定辞退防止にも一役買っているというが、他にも企業は様々な取り組みを始めている。
リクルーター制度とは逆に、内定者に後輩の面倒をみさせる企業もある。特に大手企業では、合同説明会の際、ブースの一角で内定者に質問を受けさせたり、翌年の入社案内作成を手伝わせたりすることが多い。説明できるようになるまでのプロセスで自社のことをよく勉強したり、たくさんの社員と話す機会ができたりして、自社に愛着がわくようになるからだ。
「すごい会社に入社できた」と思わせる方法もある。ある大手金融機関では、サッカーの監督や俳優、有名大学教授などを呼んで内定者向けの講演を行っているという。また、自社のエース社員と次々会わせ、憧れを持たせるという方法をとっている会社もある。
マイナビでも昨年から企業の人事担当者向けに「内定辞退防止研修」を始めたところ、大きな反響があった。今年は全国で30回程度開催予定で、500社近い企業が参加する。夏はとくに内定辞退の問い合わせが多いシーズンだ。マイナビ本社で7月25日に行われた研修に参加してみた。選考段階から内定フォローまでを4時間かけて集中的に学ぶ。
学生に内定を出すとき、一般的な企業はメールや電話で事実だけを伝えることが多い。だが研修によると、辞退を防ぐためには内定出しの段階で直接会って、これまでの面接で学生のどこが良かったか、どこに改善の余地があるかなどのフィードバックをし、自社の魅力を伝えることが大事だという。内定をもらった学生に「感動」を与えるのがキモだ。
そのため、この研修では3人1組のワークで実際に内定を出す練習をするのがメインイベントになっている。ある架空の女子学生を想定し、彼女が入社したくなるように内定を出す練習をする。架空の学生の履歴書、ここまでの面接の記録が配布され、面接風景のビデオを見て、学生のキャラクターをつかむ。学生役、採用担当者役、記録係に分かれて内定出しをシミュレーションするが、採用担当役は記録用にiPadで撮影されているので余計に緊張するようだ。あるIT系企業の男性はこうフィードバックを受けていた。
「話しながら腕を動かしすぎています。面接官の緊張が学生に伝わってしまいますよ」
優秀な学生に人気が集中する傾向は当分続きそうだ。内定を出しても気が抜けず、人事担当者の悩みは尽きないのだ。
※AERA 2013年9月2日号