混雑した車内、行列をなす乗降客。ドア付近のベビーカーは乗降を妨げるという意見もあるが、子連れだけが遠慮すべき問題なのか(撮影/写真部・山本友来)
混雑した車内、行列をなす乗降客。ドア付近のベビーカーは乗降を妨げるという意見もあるが、子連れだけが遠慮すべき問題なのか(撮影/写真部・山本友来)
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 電車やバスでのベビーカー論争を始め、子どもを連れた外出をめぐる論議は折り合わない。親が頭を下げれば解決するのか。自らの体験に基づいて作家の乙武洋匡さんと授乳服メーカー「モーハウス」代表の光畑由佳さん論じた。

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──子連れを歓迎する施設は増えています。一方で、女性専用車両のように「子連れ専用車両」を導入すべきだという意見もあります。「すみわけ」は必要ですか。

乙武:「ペット可」という断りは衛生面で必要かもしれませんが、「ベビーカー可」「子ども可」「車椅子可」というと、逆に「可」とうたっていない場所には行ってはいけないのか、となります。

光畑:「子ども可」が「子ども専用」と解釈されるのは危険です。あるファミリーレストランは、どんなに騒いでもいいし、散らかしたままでいいです、と子連れを歓迎しています。そういう場所があるのはいいけれど、そこしか選べないとなると、長い目で見て親や子どものためになるでしょうか。私が行っている美容院には、子連れで訪れて店内を走り回らせてしまうお客さんもいらっしゃるそうです。落ち着いた雰囲気でくつろぐためにお金を払っているお客さんがいる。そこで自分もお金を払ったんだから騒いでも良いということではないですよね

──飛行機に双子の赤ちゃんを乗せた外国人夫婦が、周囲に事前にキャンディーを配って理解を求めた行動は、ネットで話題になりました。

乙武:それが理想のあり方かどうかは別として、配慮をしている姿が伝わると、周りの寛容さがぐっと上がるというのは確かです。うちにも5歳と3歳の男の子が2人いますから、外食は大変なんですよ。近くの席のお客様には「お騒がせしてすみません」と頭を下げるようにしています。ファミレス以外のお店にも行きますが、かといって子どもは騒いで当然だという態度をとるでもない。中途半端といえば中途半端ですが、まずは「お騒がせして申し訳ない」という気持ちは伝えるようにしていますね。

光畑:飛行機の例は、親が先にコミュニケーションをとった良い例ですよね。周りの人も、騒ぐかもしれないなと気にかかりながらも、声をかけづらい。親のほうが先にボールを投げると、相手はボールを投げ返す機会を得られます。うるさいと思えば注意できるし、子どもに構うこともできる。頭を下げなくてもいいんです。キャンディーでもいいし、「ありがとう」でもいい。親のほうがコミュニケーションのきっかけを作ることで、周りの対応は違ってくるはずです。

乙武:漫画家のさかもと未明さんがネット上で非難されたのも、飛行機内で泣いていた赤ちゃんを母親と客室乗務員が一生懸命あやしていたのにもかかわらず、怒って雑誌のコラムに書いたからだと思います。周囲がそこまでしていたなら仕方ないんじゃないの、と感じた読者が多かった。僕自身、(レストランで入店を断られた件では)レストランに入店できなかったことに腹を立てたのではなく、「常識がない」という店の態度にカチンときてしまったわけです。「申し訳ないけれど、店の状況を考えると今日はきちんとしたサービスを提供できないので、また改めてもらえませんか」と言われていたら、僕も「こちらこそ申し訳ない、次回からは事前に連絡させていただきます」と気持ちの良い対応ができたと思うんですね。

光畑:車椅子であろうと子連れであろうと、だれにでも同じことが起きる可能性はありますよね。相手からのボールがバッドコミュニケーションだった場合は、こちらもついネガティブな反応をしてしまう。相手を一人の人間として尊重して話すことが大事で、どちらかがどちらかに頭を下げる構図ではないと思います。

AERA 2013年8月26日号