8月15日、尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権を主張する「保釣(ほちょう)行動委員会」のメンバーが島に上陸、逮捕された。この事件が発端となり、日本の尖閣国有化に弾みがつき、日中国交正常化40周年を迎えた今年、日本と中国の関係は歴史上例を見ないほど悪化している。

 日本人から見ると、保釣行動委員会の活動家たちと、反日デモで日本車を壊す中国の群衆との間に、何ら違いはないように見える。だが、委員会はこれまで中国の民主化や天安門事件の再評価を求めて、中国共産党とやりあってきた。その彼らが「日本軍国主義を打倒せよ」と叫んで尖閣諸島に押し寄せる行動の根底にあるものは何か。

 今回、記者は委員会リーダーの一人、梁国雄(リョン・クオック)氏の独占取材に成功した。インタビューでまず彼らの“目指すもの”について、中国で「愛国無罪」を叫ぶ人々と何が違うのかを聞いた。梁氏は首を振り、こう断言した。

「私は左派の活動家であり、自由主義者で、トロツキストだ。愛国主義者でも民族主義者でもない」

 梁氏は単なる活動家ではない。2004年から2期連続で香港の立法会議員(国会議員に相当、任期4年)を務め、今年9月の立法会選挙でも最高得票で当選している。

 梁氏が社会運動仲間らと「保釣」に主体的にかかわり始めたのは90年代。保釣とは「保衛釣魚台(尖閣諸島を守ろう)」の略だ。梁氏によると、保釣に取り組む理由は「米国のアジア支配に抵抗するため」だという。

 尖閣諸島が歴史的にも法律的にも「中国」に属するという点で、梁氏ら香港活動家の主張は中国のそれと変わらない。ユニークなのは尖閣と反米を結びつけるロジックだ。

「釣魚台(尖閣諸島)は本来、72年の沖縄返還の際、中国に返還されるべきだったが、米国はそれをしなかった。将来、日本と中華人民共和国が国交を結ぶことが確実だったため、日中接近を望まない米国は日中に対立の芽を残したのだ。米国は(今も昔も)釣魚台を、アジアをコントロールするために利用している。日本が尖閣諸島で以前より強硬になってきているのも、日本の背後にいる米国がここ数年、主戦場をテロとの戦いからアジア回帰に変更したことが深く関係している」

 今回、香港特別行政区政府は、保釣活動船の出航を認めた。その理由について、梁氏はこう説明する。

「中国政府も米国のアジア回帰を意識している。領土問題や海洋問題について、日本や米国に対して強い姿勢をアピールするため、今回は衝突することを望んでいたからだ」

AERA 2012年11月26日号