ジャズの真髄を感じさせる予測不能な旅
Live / Brad Mehldau Trio
『アート・オブ・ザ・トリオ』と題した2001年までのシリーズ5タイトルを通じて、現代のアコースティック・ピアノ・トリオの行き方を示したブラッド・メルドーは、近年キャリアの転換期を迎えた印象を抱く。約10年間活動したレギュラー・トリオは2005年にドラマーが交代。その後、新トリオとパット・メセニーがコラボレートした2枚のセッション作や、ソプラノ歌手ルネ・フレミングとのデュオ作をリリース。2枚組のソロ・ピアノ作『ライヴ・イン・トーキョー』もまだ記憶に新しいところだ。
本作は2005年発表作『デイ・イズ・ダン』以来の新トリオでの2枚目にして、初のライヴ・アルバムである。『アート~』シリーズのうち3枚がライヴ盤で、しかもジャズ・クラブのメッカ“ヴィレッジ・ヴァンガード”での録音であることを踏まえると、本作をヴァンガード・ライヴとしたのはメルドーの強いこだわりゆえだと思えてならない。スタンダード、ジャズ、MPB、ロック・ナンバーにオリジナルを加えたプログラムは、いつものように多彩で、メンバーが変わってもメルドーが自分の流儀を貫いているのがファンには嬉しい。本作は5日間のレコーディングからセレクトされた音源の再構成なので、曲順が時系列とは言えないが、ハイライトは最も演奏時間が長い23分に及ぶディスク1の《ブラック・ホール・サン》。ロック・バンド=サウンドガーデンのカヴァーはバラードで始まって徐々にテンポ・アップ。10分過ぎあたりからピークに突入して、ピアノが主旋律を奏でながらトリオが一体となるインプロヴィゼーションへと進展。さらに16分を過ぎると場面が転換して、ベース&ドラムスを軸とした新しい展開へと移行する。この予測不能な旅こそがメルドーの本領なのだ。ジャズの真髄が「スリリング」と「カタルシス」であるならば、ブラッド・メルドー・トリオはまさにそれを体現したユニットだと断言できる新作である。
【収録曲一覧】
Disc 1
1.Introduction
2.Wonder
3.Ruby’s Rub
4.O Que Sera
5.B-Flat Waltz
6.Black Hole Sun
7.The Very Thought Of You
Disc 2
1.Buddha Realm
2.Fit Cat
3.Secret Beach
4.C.T.A.
5.More Than You Know
6.Countdown
ブラッド・メルドー・トリオ:Brad Mehldau Trio (allmusic.comへリンクします)
ブラッド・メルドー:Brad Mehldau(p)
ラリー・グレナディア:Larry Grenadier(b)
ジェフ・バラード:Jeff Ballard(ds)
2006年.10月ニューヨーク録音