指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第10回は「選手の食事」について。
* * *
2月21日に日本を発ってスペインで高地合宿に入りました。シエラネバダ山脈の標高2300メートルのスキーリゾートにある国立トレーニング施設は、北島康介がアジア大会で初めて世界新を出した2002年から利用しています。
近くにコンビニなどもなく、食事は施設内のレストランでとります。基本的に現地で出されたものをしっかり食べる。ただ、日本人のソウルフードである米だけは炊くように頼んで、朝昼晩でなるべく2回は食べるようにしています。補食で、選手たちが当番制で作るおにぎりも食べています。
トップアスリートの合宿ではエネルギーと必要な栄養素をとるために、デザートまで何でも食べろと言います。激しい練習が続き、高地はエネルギーの消費量が多いので、しっかり食べないと体重が減ってしまうのです。食が進まないときは「食べるのも練習だぞ」と言うこともあります。
ここのメニューは肉と魚がチョイスできます。シェフが腕をふるっておいしいのですが、日本の食事と違って見た目が今いちのときがあります。食べず嫌いの選手がいるので、まずは私が食べて、「今日は魚がいいぞ」「このスープ、最高だ!」などと言っています。
オフの日、グラナダの町に下りて外食をするときがあります。地元の店でみんなで食べる食事は楽しみの一つです。こんなときも私が率先して新しいメニューに挑戦します。豚の太ももの骨付き肉に女子選手が尻込みしたときは、「このコラーゲンが美容にもいいんだぞ」とすすめました。
若いころの北島はたくさん食べられない方で、なんでも食べるように仕向けていました。ジュニア合宿で豪州のタスマニアに行ったとき、カキはだめなんですと言うので、「うまいのを食べたことがないからだ。ここのは新鮮でうまいぞ」と一緒に食べたら、それ以来、カキが大好きになったということがあります。