半世紀ほど前に出会った97歳と83歳。人生の妙味を知る老親友の瀬戸内寂聴さんと横尾忠則さんが、往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう。
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■横尾忠則「長寿の秘密のひとつ、すぐ眠れることでしょ」
セトウチさん
眠ることに関しては天才的なセトウチさんはバタンQですよね。僕は反対にカッと見開いてしまって時々不眠症になることがあります。セトウチさんの長寿の秘密のひとつは、すぐ無意識になってコロンと眠れることでしょう。どうしたら、あんなに催眠術にかけられたようにコトンと猫みたいに眠れるんですか?
さぞ、たっぷりと夢もご覧になると思うんですが、セトウチさんからあんまり夢の話は聞いたことがないですね。三島(由紀夫)さんは「夢は見たことがない」とおっしゃっていました。「俺には無意識はない」と言う方だから、夢を見るはずがないですよね。そんな三島さんが小説の中で夢を見る話があるんですが、その夢の話は如何(いか)にも作り話で、僕みたいに夢をよく見る者から言わしていただくと、かなりインチキ夢です。如何にも予定調和的な夢で、ああこの人は夢を見たことがない人だな、と思って「夢は見ますか?」と聞いたら案の定、「見たことがない」とおっしゃったのです。
去年、セトウチさんの夢を見ました。京都の五条通で、占師になって、手相を見ているセトウチさんです。大勢の女性が行列を作っていました。通りかかった僕は「あら、またインチキ占いなどして!」と思いました。いつか四国の造船会社の社長だかにおみくじを頼まれて、「皆んなが喜ぶようなことばっかり書いちゃうの」とおっしゃったことがありました。そのおみくじのデザインを頼まれたんです。「ヘエー、インチキおみくじのデザインかア」と、結局実現しなかったんですかね。そんなことがあったので夢の中の手相見のセトウチさんのいい加減な占いに、若い女性が行列を作って……、まあ鑑定代はいくらか知らんけれど、騙(だま)されたい女性がいっぱいいるんだと、夢の中で僕は思ったもんです。