三宮から帰る途中、よめはんが「太陽の塔を見に行こ」といった。「改修工事が終わって、いまは内部が見学できるんやで」「それやったら寄ってみよ」

 というようなことで久々に太陽の塔を間近で見た。相も変わらず、ばかデカい。高さは七十メートル、基底部の直径は二十メートル、腕の長さ(片側)が二十五メートル、黄金の顔の直径が十メートル以上もあるという。ひとつの美術作品としてはまぎれもなく日本最大で、制作した岡本太郎の才能もさることながら、岡本を展示プロデューサーに抜擢(ばってき)した通産官僚の堺屋太一と、このプロジェクトを推進させたサブプロデューサーの小松左京に感心し、よくぞこんな途方もないものを、おそらく周囲の反対を押し切って、岡本の思うがままに完成させたものだと感謝した。

 陽光をうけた金色の顔は輝いていた。フクロウの顔のようにも見えた。そう、太陽の塔はかわいい。ばかデカいくせに愛敬がある。大阪にこんなすばらしいモニュメントがあることはまことに誇らしい。

 しかしながら、塔の内部には入れなかった。見学予約がいっぱいで、当日券がなかったから。

「次は予約して来ようか」

「いえ、けっこうです。堪能しました」

 外は見た。中はもういい。

週刊朝日  2020年2月7日号

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黒川博行

黒川博行

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

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