中東に派遣される護衛艦「たかなみ」(c)朝日新聞社
中東に派遣される護衛艦「たかなみ」(c)朝日新聞社
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 米国とイランの対立によって中東情勢の緊張が高まっている。多くの不安を抱えながら、中東海域で活動する海上自衛隊のP3C哨戒機部隊は1月20日、アフリカ東部のジブチの拠点で任務に就いた。2月2日には護衛艦「たかなみ」も海自横須賀基地から出国する予定だ。

 政府は国会の閉会後に海自の中東派遣を閣議決定し、通常国会が始まる前に派遣命令を出した。国会を素通りした不誠実な対応に、立憲民主党の逢坂誠二衆院議員が怒りを込めて語る。

「与党内だけで派遣を決めて、立法府での議論を無視したことに強い憤りを感じています。安倍政権は国権の最高機関は内閣だと思い込んでいるのではないか。由らしむべし、知らしむべからずの典型であり、こんなことではシビリアンコントロールは効きません」

 派遣の法的根拠は、防衛省設置法第4条の「調査・研究」だ。日本関連船舶の安全確保のための情報収集が目的で、船舶の護衛をするわけではない。4条は防衛省の所掌事務を列挙した規定だが、それを理由に自衛隊の実動部隊を海外に派遣するのは無体な話だ。

 調査・研究名目での派遣では、武器使用は正当防衛や緊急避難に限られる。年明け早々、米国はイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害したことで、閣議決定の時点とは情勢が一変している。政府は、不測の事態が起きれば日本籍の商船などを防護するための「海上警備行動」に切り替えるというが、海自は丸腰同然だ。

 逢坂氏が続ける。

「過去の事例を見ても、紛争や衝突は偶発的に起きるものです。そのなかで日本関係船舶の安全をどうやって確保するのか、政府は何の説明もしていない。自衛隊員の生命が守られることも大事ですし、海上警備行動への移行が法的に許容されるのかどうかも検討されなければなりません」

 憲法学者の小林節・慶応大学名誉教授もあきれながら言う。

「調査・研究の目的外利用というほかありません。実際には警備が目的ならば、派遣部隊はあまりにも迫力がなさ過ぎて、本当に危険です。任務で現地に赴いているのに、個人の判断で正当防衛というのでは筋が通りません。軍隊ではない自衛隊は『警察比例の原則』で相手からの攻撃以上の反撃をしてはならないという制約はあります。しかし、最初から海上警備行動で派遣していれば、武力攻撃があった時に組織的に反撃ができます。こんなことをしていたら、いずれ自衛隊に死者が出ます。それが現実のものとなった時、日本人は受け止められるのでしょうか」

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日本の護衛艦の死角は