年末は50メートルを40回といった厳しい練習が恒例になっているのですが、大橋悠依は練習での自己最高を次々に更新しています。1年前は息も絶え絶えになっていた練習で、表情に余裕を感じさせる。自分の体をコントロールしながらいい記録で泳いでいます。世界選手権の個人メドレーで17年に200メートル銀メダル、昨年は400メートル銅メダル。練習の充実ぶりから考えると今年は相当期待できるな、と私は思っています。

 勝負に勝つために行う練習で最も重要なことは「忍耐力と克己心」。これは東京スイミングセンターで指導の基礎を作った故・小柳清志さんの教えです。

 私は「小柳方式」を受け継いで、指導に生かしています。選手のモチベーションを高めて目標を定めるのはコーチの役目ですが、困難な目標に向かってどんなことがあってもやり遂げる覚悟を決めるのは選手の役目です。萩野、大橋だけでなくほかの選手たちも「克己心」の大切さを理解して覚悟を決めている。決して安心しているわけではありませんが、私の経験から言うと、こういうチームの雰囲気が出てきたときは、いい成績が残せるんです。

(構成/本誌・堀井正明)

週刊朝日  2020年1月24日号

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平井伯昌

平井伯昌

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/東京五輪競泳日本代表ヘッドコーチ。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる』(小社刊)など著書多数

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