※写真はイメージです (Getty Images)
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2019年ベスト10 (週刊朝日2020年1月3-10日合併号より)
2019年ベスト10 (週刊朝日2020年1月3-10日合併号より)

 週刊朝日恒例の「歴史・時代小説ベスト10」。11回目となる今回は、例年同様、文芸評論家や書評家、新聞・雑誌の書評担当者、編集者、書店員など“本読みのプロ”の方々を対象にアンケートを送る形式で実施した。2018年11月から19年10月までに刊行された歴史・時代小説の中から、それぞれベスト3を推薦してもらい、順位をつけた。

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 1位の今村は前年2位から今回初めてトップに輝いた。2位の川越、3位の大島は初のランクイン。4位の朝井は7年連続。5位の天野は09年以来。6位の荒山は17年1位『白村江』から2年ぶり。木下、澤田、伊東はベスト10の常連組だ。森山は第10回朝日時代小説大賞受賞作で初のベスト10入り。

 19年も若手からベテランまで、多彩な力作がそろった。中でも『熱源』『真実の航跡』をはじめとして、近現代史に挑戦した意欲作が目を惹いた。

■1位 『八本目の槍』今村翔吾

 賤ケ岳の戦いで功名をあげ、「賤ケ岳の七本槍」と呼ばれた虎之助、助右衛門、甚内、助作、孫六、権平、市松の7人それぞれの小姓時代の若き日と、敵味方に分かれて戦うこととなる関ケ原の戦い前後を描くなか、豊臣家を守ろうとした石田三成の姿とその知略が鮮やかに浮かび上がる。

 さえない男といった従来ありがちだった三成像を根本からくつがえす。

「賤ケ岳の七本槍の人生を描く連作集と見せかけて、8番目の男・三成をクローズアップする構成が鮮やか」(文芸評論家・末國善己さん)

「三成を中心とした8人の小姓たちの楽しくも苛酷な日々を通して、今村翔吾版『なかま』の思想的骨格がはっきりと示された佳作」(文芸評論家・高橋敏夫さん)

■2位 『熱源』川越宗一

 18年に『天地に燦たり』で松本清張賞を受賞した著者のデビュー2作目。時代は明治初期から昭和の太平洋戦争終結まで。樺太(現サハリン)を舞台に、アイヌの若者とポーランド人の民族学者を通して、民族の誇りとは何かを問う。

 樺太で生まれたヤヨマネクフは開拓使に故郷を奪われ、山辺安之助と名前を変える。苦労を重ねながら樺太に戻り、後年は白瀬中尉率いる南極探検隊の一員となる。金田一京助や大隈重信などもからみながら樺太アイヌの闘いを描く。第162回直木賞の候補に。

「明治維新後に樺太に住むアイヌを襲う悲劇をこれほどまでに熱く語り尽くした作品は他にあるまい。しかもロシアからの流刑囚の視点が加わることで、物語に重層的な感動が醸し出されている」(文芸評論家・小梛治宣さん)

■3位 『渦』大島真寿美

 人形浄瑠璃作家・近松半二。傑作『妹背山婦女庭訓』を生んだ半二の生涯を大坂・道頓堀を舞台に描く。

 浄瑠璃好きの父親からもらった近松門左衛門の硯。半二はそれを運命としてとらえ、作家になる道を志す。友人で一足先に世間に注目される歌舞伎作者の並木正三、人形遣いの吉田文三郎らとともに、テンポ良い大阪弁の語りで描く。第161回直木賞受賞作。

「お三輪という娘を創造していくプロセスと、最終章でそのお三輪の語りと地の文を交互に重ねていく凝った構成が秀逸」(文芸評論家・清原康正さん)

「書くことにとりつかれた作家の業を作家自身がよくぞ」(赤旗編集局・清水博さん)

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