半世紀ほど前に出会った97歳と83歳。人生の妙味を知る老親友の瀬戸内寂聴さんと横尾忠則さんが、往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう。
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■横尾忠則「もしもタカラジェンヌになっておられたら」
セトウチさん
「タカラヅカに入りたかったのよ」というセトウチさんの言葉に吃驚(びっくり)仰天。じゃ、行きましょうと宝塚劇場にセトウチさんをご案内したことがありましたよね。この頃、僕は宝塚の公演ポスターを描いていて、色んな組のトップスターと親しくなっていたので、彼女からプラチナシートという舞台の一番前のド真中(まんなか)の席のチケットを入手して、「ベルサイユのばら」を観(み)に行きました。そして、フィナーレが終わった直後、楽屋で男役トップスター、娘役トップスター、そして準主役の三人と逢って、記念写真を撮ってもらいましたよね。憶(おぼ)えていらっしゃいますよネ。
プラチナシートに座ると、トップスターから、投げキッスがあったり、ウィンクを送られたり、目と目を合わせて歌をプレゼントされたりで、他のお客からやっかみを受けたかもしれないほどの名誉な特別席なんですよ。この日はセトウチさんが来ているというので舞台のタカラジェンヌの間で話題になって、大変だったんじゃないかな。
今から21年前の話です。僕が初めて宝塚を観たのは1998年。雪組の「浅茅が宿」でした。この時の男役トップは現在専科の轟悠さんでした。「こんな世界があったんだ!」と感動した僕は劇場を出るなり、宝塚関連商品を販売している店で、タカラジェンヌのブロマイドをいっぺんに1000枚買ったのが、宝塚に病みついた最初です。
そして帰京するなり、主役の轟悠さんと対談することになり、その後、月組の真琴つばささんの口利きで月組公演「LUNA」のポスターを作ることになってからというもの、他の組のポスターも次々と描くようになって、最後は、やはり轟悠さんの「タカラヅカ・ドリーム・キングダム」の舞台美術まで手掛けるようになったのです。その後も観劇を続け、宝塚歴10年、押しも押されもしない立派なおやじファンになりました。