「食べたいときに食べたい物を食べる、何かしたいときに希望がかなう、それだけなんですが、前向きに生きていけるようになりました。買い物や街歩き、観光、ライブにも行きます」
このほか、病院の筋ジストロフィー病棟で長期入院している患者が地域で暮らすためのプロジェクトにも取り組む。
NHKの番組では、安楽死した女性と同じ病気に罹患しているが、人工呼吸器を装着して家族と共に生きることを選んだ女性のことも紹介した。岡山さんはこう感想を漏らす。
「2人の事例が出てきたものの『重度障害者になったら死んだほうがいい』というメッセージのほうがより強く印象に残りました。私と同じような境遇の人に安楽死を誘発しないといいですが……」
JCILが6月に公表した声明には、こんな文章が並ぶ(声明から抜粋)。
──私たちの中には、障害や難病による不自由な日常生活や様々に受ける差別の中で、毎日がこんなに苦しいのだったら、こんなにみじめな思いをするのだったら、死んでしまいたい、家族に迷惑をかけて生き延びたくない、などと思っている者、思ってきた者が少なからずいます。
──今回の報道は障害や難病を抱えて生きる人たちの生の尊厳を否定し、また、今実際に「死にたい」と「生きたい」という気持ちの間で悩んでいる当事者や家族に対して、生きる方向ではなく死ぬ方向へと背中を押してしまうという強烈なメッセージ性をもっています。
声明を起案したメンバーで、JCILの介助コーディネーター(支援者)の渡邉琢さんはこう話す。
「日頃から障害者や難病患者は『ベッドで寝たきりのまま生きていて、どうするの』と社会から生に対する否定的なメッセージを浴び続けています。番組の影響を考えると、社会がさらにその方向へ動くのではないかという怖さや強い危機感を持ちました」
さらに、JCILが問題視したのは、番組で放送した安楽死に至る瞬間の映像だった。医師が致死薬の点滴を処方し、女性が手首のストッパーを外すと眠るように亡くなった。それは視聴者にとって、まるでドラマのようにも見えた。
実際のできごとをそのまま映したそのシーンは重度障害者や支援者に衝撃をもたらしただけでなく、「放送番組の倫理基準から逸脱しているのではないか」とJCILは指摘する。