それが禁止になったのは、3・11の放射能汚染後のことである。軽井沢でも少し線量が上ったとかで、以後しばらく焚火は出来なくなって、いまでは無粋なキカイの音が鳴り響くようになった。

 私の大好きな落葉松の黄金色の針が、土に還って腐葉土になることもなくなってきた。
 朝起きるとうっすらと庭が白くなっていた。

 雪が降ったのである。前夜は、マイナス5~6度だったから、これからは、雨はほとんどが雪になる。

 今は、冬場は行かなくなったが、かつては完全暖房の家を頼りに20センチ位の雪なら出かけたものだ。

 新雪に、様々な足跡がある。小さいのは兎、狐や狸、猪と思われるもの。ひときわ大きいのが、カモシカ。一直線に森を目指している。

“落葉松の睫毛を閉じて山眠る”

 落葉松の枝にもうっすら雪がついていた。

週刊朝日  2019年12月20日号

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下重暁子

下重暁子

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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