映画の後半、44歳の男性が出てくる。この方は以前、ある施設に入っていた。それが殺傷事件のあった相模原市の障害者施設なのだ。2016年に入所者19人が殺害され、職員を含む計27人が重軽傷を負ったあの事件。その44歳の男性は、施設で犯人に刺されて重傷を負った人。事件後、施設を出て、両親が息子であるその男性と向き合い始めているのだ。父親と母親は反省の気持ちをカメラの前で話す。そしてあの事件が起きて、一命を取り留めた息子と一緒に、親子として、家族としてもう一度歩き始めている。その男性は、最近、人にモノをあげたり、渡したりすることができるようになったという。この前までできなかったのに。親が一緒のスピードで歩き始めたからなのか。
この映画を見て思ったのは、あらためて、人の成長するスピードはそれぞれであるということ。障害があったりして、「平均的」と言われるスピードよりだいぶ遅いことだってある。親や周りは、自分が望むスピードで成長しないとき、焦ってしまいがちだが、その子のスピードを受け入れて、それに合った環境を作ってあげることが大事なのだなと感じた。
親のために成長するのではない。自分のために成長するのだから。映画「道草」。素晴らしいので、もっと全国で上映されますように。
※週刊朝日 2019年12月27日号