22年ぶりに公開される新作「男はつらいよ お帰り 寅さん」。50作を数えるシリーズになくてはならないのが、佐藤蛾次郎さん演じる「源公」の存在だ。もじゃもじゃ頭に半纏(はんてん)姿で寅さんを「兄貴」と慕う。その関係は、実生活でも変わらなかった。
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「渥美さんには本当に可愛がってもらいました。いつもご馳走してくれたしね」
二人の年齢差は16歳。11人きょうだいの下から2番目として育った蛾次郎さんにとって、実際の兄貴のような存在だった。
「よく飲みに行ったけど、一番楽しかったのは、二人で渥美さんの馴染みの店へ行ったとき。渥美さんに『寅さん、歌えよ』と言われたんです。俺が仁義切ってやるから、って。あり得ないですよ。店の若いのがピアノを弾いてくれて、渥美さんが『わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又』ってやり始めた。お客さん大拍手ですよ。あとでいろんな人から『渥美さんがそんなことするわけない』って言われたんだけど、いや、したんだって(笑)。けっこう渥美さん、僕に対してはいろいろやってくれたんだよね」
気前よく面倒見のいい渥美さんだが、バカ騒ぎをするタイプではなかった。蛾次郎さんには心を許していたのだ。
「なんでかって? ウマが合ったんじゃないですか。渥美さんは偉そうにしないし、俺も渥美さん、渥美さんって慕ってたしね」
そもそものはじまりは、山田洋次監督との出会いだ。1967年、大阪の劇団にいた蛾次郎さんのもとに、新作映画でチンピラ役を探していた監督がオーディションしにやってきた。
「偉い監督が来るから朝の11時に来なさいと言われたんだ。でも俺行かなかったの。オーディションなんて大っ嫌いだからね。一度使ってみりゃわかるだろ?って、友達とモダンジャズ聴いて遊んでたんだよ。あのころはたいして売れてもいないのに、生意気だったんだね」
2時間近く遅刻して行くと、山田監督はまだ待っていた。悪びれる様子もなく、足を組んでタバコをふかす蛾次郎さんを見て、監督は笑っていた。気にいられたのだ。あとになって「大阪におもしろいヤツがいる」という噂を聞いていたと知った。