そんな折、テレビの報道番組で、「工場 日本回帰」という特集が流れた。国内で工場を新増設する日本企業が増えているというのだ。確かに、「メイド・イン・ジャパン」へのニーズが強い化粧品などでは、喜ぶべき現象が起きているのかもしれないが、一方で、国内回帰の要因として、「中国やアジア諸国で賃金が急上昇しているから」という解説もなされた。それで、「日本はやはりすごい」というのだが、これこそ、自動車部品メーカーのトップが言っていた、日本の労働者の賃金が安くなってきたことの効果そのものではないのか。
つまり、日本の労働者は、自らの賃金と生活水準をアジア諸国並みに切り下げることによって、ようやく雇用を維持していけるということだ。今の日本の経営者には、雇用維持のための「妙案」がないとすれば、日本の労働者の生活は今後も切り下げが続く。悲しいことだが、それが現実なのだ。
※週刊朝日 2019年12月20日号