先日、ある大手自動車メーカーに部品や素材を供給する企業の会合に参加した。そこであらためて思い知らされたのが、日本の労働者がいかに厳しい状況に置かれているかということだ。
世界の中で日本の製造業の地位は年々下がっている。特に、電機産業では、家電から始まり、太陽光パネル、半導体、液晶、パソコン、スマホなど、次々に韓国・台湾・中国企業などに敗れ去った。
そんな中、自動車産業は、日本が世界の先頭グループを走る唯一の産業分野となった。経済産業省も「一本足打法」と認めるほどの日本経済の屋台骨である。その自動車産業を支えるのが部品・素材を供給する「下請け」企業群だ。「下請け」と言っても弱小中小企業ではない。売り上げ1千億円単位、従業員数千人、海外数十カ国に展開というような巨大企業も多い。
未曽有の激動期を迎えた自動車産業にあって、彼ら「下請け」メーカーのトップが何を考えているのかを聞いて私が感じたのは、彼らは、もう日本企業ではなくなりつつあるということだ。ソフトバンクなどとは一線を画し、日本的経営を維持するトヨタを頂点とする日本の自動車産業にありながら、部品・素材メーカーの経営者が、やや誇張した言い方ではあるが、「日本を捨てつつある」というのは驚きだった。
特に、企業と自分の運命が100%重なるオーナー経営者を頂く企業ほど、「日本企業」ではなくなっていると感じた。その根源には、オーナーが抱く強烈な危機意識がある。
例えば、こんな話だ。「従業員7千人のうち過半は海外の工場。生産の過半も海外。カネ余りと批判されるが、利益では海外が圧倒的に多く、カネは海外にある。投資しろと言われても、日本の少子高齢化は止まるどころか加速が見込まれ、国内投資なんかできるはずがない。現状では、海外で稼いだカネは海外で回すしかないということだ」
では、国内はじり貧で、先がないのではないかと聞くと、「大きく見れば、それは仕方のないこと。無理に抗っても失敗する」。
今の日本の労働者はどうなるのかと問うと、「彼らを何とか養っていくのが最大の課題だが、妙案はない」「実は海外の労働者の賃金がどんどん上がって、日本の労働者の賃金が相対的に下がることで、国内の雇用を維持できる」という本音も出た。日本の労働者は、国際的にみるとどんどん貧しくなることによって、自分たちの雇用を維持しているということだ。