エンペラー・マーチ/チャールズ・トリヴァー・ビッグ・バンド
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再評価されているチャールズ・トリヴァーの新作ライヴ
Emperor March / Charles Tolliver Big Band

 70年代からジャズを聴き続けているファンにとって、チャールズ・トリヴァーという名前は懐かしくも特別な響きがあるだろう。その理由は69年にミュージックINCを設立し、Strata-Eastレーベルの主宰者として革新的な米国黒人ミュージシャンを支援したことで、ジャズ史にその名を刻んでいるからだ。ところが自身、第一線を退いたことでレコーディング活動からも遠ざかり、いつしか過去の人として扱われて久しい状態が続いていた。それがここのところ70年代作がリイシューされたことや、同レーベルの再評価が手伝って、トリヴァーに対する時ならぬ注目が集まっていた状況。2007年に米国でリリースされながら日本未発売だった『ウィズ・ラヴ』が、遅ればせながら来日記念盤として1月に国内登場したのも追い風となった。

 本作は高い評価を受けたチャールズ・トリヴァー・ビッグ・バンド(CTBB)のスタジオ作に続く、NYの名門クラブでのライヴ・アルバムである。選曲は1曲を除き、すべてトリヴァーのオリジナル。スケールの大きいアフロ・ジャズ曲#1から、たちまちエネルギーが充満する。この黒い熱気は、70年代にやはり大編成によるアフロ・ジャズを牽引したマッコイ・タイナーの行き方とも重なって、インパクトが大きい。ストリックランドとカウエルのソロも強力だ。

 CTBBのサックス・セクションで最も著名にして最年長のビリー・ハーパーがフィーチャーされる#2は、この曲の決定版を残しているジョン・コルトレーンの名演を彷彿させる。同時に1月の来日公演でも披露したハーパーのテナー・ソロが重なって、生鑑賞したファンには改めて感動が味わえる趣向。ミディアム・テンポのタイトル曲#3は、ハービー・ハンコック「スピーク・ライク・ア・チャイルド」に通じる楽想が親近感を抱かせる。日本では無名のバーショアのアルト・ソロも収穫だ。近年ヨーロッパ勢の充実ぶりが目立つビッグ・バンド界で、アメリカ勢の底力を再認識させられた1枚である。

【収録曲一覧】
1. On The Nile
2. I Want To Talk About You
3. Emperor March
4. Chedlike
5. In The Trenches
6. Toughin’

チャールズ・トリヴァー:Charles Tolliver(tp,ldr) (allmusic.comへリンクします)
デヴィッド・ワイス:David Weiss(tp)
ビリー・ハーパー:Billy Harper(ts)
トッド・バーショア:Todd Bashore(as)
スタンリー・カウエル:Stanley Cowell(p)
レジー・ワークマン:Reggie Workman(b)
ジーン・ジャクソン:Gene Jackson(ds)

2008年7月NY録音

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