藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中
弟の幸夫さんと「藤巻兄弟」を連載していた=2008年撮影 (c)朝日新聞社弟の幸夫さんと「藤巻兄弟」を連載していた=2008年撮影 (c)朝日新聞社
 朝日新聞で8年、週刊朝日で8年と16年間にわたり続けた連載もついに最終回となった。朝日新聞土曜版be「藤巻兄弟」で一緒に書き始めた頃、腹で風を切って颯爽(さっそう)と(?)歩いていた弟・幸夫はもうこの世にはいない。私のほうはbeでの連載終了後もこのコラムを書き続けた。Xデーへの備えを考え始めた方が少しでもいるのなら、望外の喜びだ。

【弟の幸夫さんとの2ショット写真はこちら】

 また連載で、多少なりとも政治に影響を与えることができたと自負している。

 自慢げだが、金融マンのときは金融界のオピニオンリーダーだった。実績があったし、当時世界最高峰と言われたモルガン銀行の在日代表兼東京支店長だったからだ。だが政治家は私の声を参考にしなかった。実務家の意見を尊重する米国とは大違いである。

 参議院議員になってからは、多くの政治家から「読んでいるよ」と声をかけられた。政策に反映させられなかったものの、コラムを通じて政治家の心理に訴えることができた。重鎮の国会議員が連載で指摘したことについて質問をしてくれた、と感じたことも何度かある。連載を続けられたことや、何より読者の皆様には感謝の念でいっぱいだ。

★   ★
 最終回に強調しておきたいことは、破綻(はたん)すると言い続けてきたのは、日本の財政とそれに連座してきた日銀であり、日本国自体ではない点だ。Xデーとは政治が解決できずに極限までいった経済のひずみを、市場が解消するに過ぎない。

 財政や日銀が破綻しても、超円安によって日本は数年後に確実に復活する。市場原理は偉大なのだ。ただ、Xデー後の苦しい数年間を生き延びる備えだけはしておいたほうがいい。

 もっとも、単に復活するだけで以前と同じような経済運営をするのでは、また同じ事態に陥ってしまう。なぜ日本は世界最大の借金国になる一方で、世界ダントツのビリ成長しかできなかったのか。その原因を突き止めなければならない。

 主因は日本が社会主義的な経済運営をしてきたからだと思う。そして、その経済運営の結果でもあるのだが、円が国力に比べて強すぎたせいでもある。

 
 日本は明治維新や太平洋戦争という大きな出来事がないと、社会の仕組みを変えられなかった。逆に言うと、そういう出来事があると大きく変わり得る。

 Xデーが不可避なら、せめて不幸中の幸いにしたい。真の資本主義国家に生まれ変わるチャンスなのだ。そうすれば、1970年代に、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とまでいわれた経済力を取り戻せる。

 詳細は近々本に書くので、ぜひご購入を。最終回は本の宣伝になってしまった。このしたたかさ、ずうずうしさは、政治の世界に身を置いたことで養われた(笑)。

★   ★
 先日、パーティーで三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行会長に久しぶりにお会いしたら、「金融界のレジェンドです」と周りに紹介してくれた。それを聞いた友人に、「昔はともかく今はオオカミじいさん。レジェンド変じてジ・エンドだ」と言われた。

 確かにそうかもしれない。家内に金本位制ならぬ“自己本位制”と言われたこの連載もジ・エンドが来たようだ。長い間、本当にありがとうございました。

週刊朝日  2019年12月6日号