「天才少女」、そんな常套句を超えた将来性溢れる作品
Ella…of Thee I Swing / Nikki Yanofsky
6月下旬、カナダのバンクーバー・インターナショナル・ジャズ・フェスティヴァルに行ってきた。モントリオールと並ぶ同国2大ジャズ祭の西海岸版は、10日間、40箇所に1800人のミュージシャンが出演する大規模なもの。ぼくはその前半を取材してきたのだが、後半に2000人収容のホール・コンサートを行ったのがニッキ・ヤノフスキーだった。
2006年のモントリオールJFでセンセーショナルなデビューを飾るや、たちまちスターダムに上ったシンガー。この時、わずか12歳という若さ。2007年リリースのオムニバス作『ウィ・ラヴ・エラ』で偉大な先達への敬意を表明し、存在感をアピールした2年後のこれはデビュー作である。
本作は2つの点で異例だ。1つはデビュー作にしてライヴ盤であること。新人であれば、微調整が可能なスタジオ録音が定石だからだ。2つ目はCD+DVDのパッケージ。後者は本編のステージをそのまま収録した動画である。
よほどの自信がなければ、このような企画は成立しなかったはず。ニッキにはそれを可能にする実力が備わっており、同時にヴィジュアルの魅力をアピールすることも得策だと考えた…。本作は元々カナダの独立系レーベルが制作し、同国のユニバーサルミュージックが配給した経緯があって、母国の稀に見る逸材を広く紹介したいとの気持ちが制作者側にあったことは疑いない。
2007年モントリオールでのステージを収めた本作は、エラ・フィッツジェラルドへのトリビュート・コンサート。当時13歳のニッキは、オープニングからそんな若さだとは思えないほどの堂々とした歌唱で圧倒する。
大人びた歌唱力、という形容では足りないくらいのしっかりとした基礎体力に加えて、類稀なるジャズ・センスをこの若さで吸収したことに驚くしかない。器楽に比べて良し悪しの判断に主観的要素が多くなりがちなジャズ・ヴォーカルにあって、ニッキは懐疑的な視線を強く跳ね返す逞しさを身につけている。「天才少女」と名付けるのはたやすい。そんな常套句を超えた限りない将来性が溢れる作品だ。
【収録曲一覧】
1. Lullaby Of Birdland
2. It Don’t Mean A Thing
3. Swingin’ On The Moon
4. You’ve Changed
5. Flyin’ Home
6. Relax Max
7. Old MacDonald
8. Hear Me Talkin’ To Ya
9. Ain’t Got Nothin’ But The Blues
10. At Last
11. The Way You Look Tonight
12. A Tisket,A Tasket
13. Over The Rainbow
14. ‘Deed I Do
15. Vote For Mr.Rhythm
16. Evil Gal Blues
17. With A Little Help From My Friends
ニッキ・ヤノフスキー:Nikki Yanofsky(vo) (allmusic.comへリンクします)
2007年10月モントリオール録音