“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、日銀が行った異次元の金融緩和が招く危機を予測する。
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私がモルガン銀行(現JPモルガン・チェース銀行)に入社した頃の日本は有担保主義で、資金の移動に伴い担保となる大量の約束手形が動いた。
それを担当者が黒塗りのママチャリを駆使して運んでいた。銀行間の書類も自転車で運んだのだ。銀行の本店や地銀・外銀の東京支店は日銀の周辺と相場が決まっていた。それも日銀に近ければ近いほどステータスが高いと言われた。
モルガン銀行東京支店も有楽町にあった。それが突然、赤坂に移転することに。当時、世界最高峰といわれていたモルガン銀行が遠くに行くのかと、業界では驚かれた。将来の社長・会長候補と目されていたニックがNYから、移転反対派の私の説得に出張してきた。
「タケシや私、そしてウェザーストン会長にとってはこのビルが快適でも、他の人たちには天井が低すぎて快適ではないんだよ」
うまい説得に私は反対派の旗を降ろした。ちなみにその話は、「JPモルガンでは背が低い人が出世できる」と面白おかしく伝わった。銀行の立地をはじめ世の中は動くが、変化のすべてが望ましいわけではない。
日銀の財務内容が激変した。1990年代の長期国債保有額はほぼなく、株式や不動産の保有はゼロだった。ところが異次元の金融緩和で、投資信託の一種のリートの形で不動産を大量に買った。株式もETFの形で買い、日本最大の株主になろうとしている。
国債市場でも圧倒的な存在。日銀が爆買いをしていなければ、長期金利は高騰しているはずだ。98年にロシア国債の利回りが財政危機を反映して80%を超えたが、それと同じことが起きていただろうと想像する。
他の中央銀行と比べて、長期国債購入の程度はすさまじい。株に関して言えば、金融政策目的で買っている中央銀行は(先進国では)日銀以外ない。
中央銀行が、不動産や株式、国債市場で圧倒的存在となり価格をコントロールするのなら、日本は社会主義・計画経済国家といってよい。計画経済国家では旧ソ連が突然崩壊したように、積み重ねた無理が突然表面に現れるものだ。