トランプ大統領は米国史上4人目の弾劾調査を受けた大統領として歴史に刻まれることになる。1868年のジョンソン大統領と1998年のクリントン大統領は下院で弾劾訴追されたが、上院で無罪となり、罷免は免れた。だが、1974年にニクソン大統領は辞任。トランプ大統領も同じ道を歩むのか? ジャーナリスト・矢部武氏が経緯を追いながら解説する。
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2年近くに及んだロシア疑惑の捜査では元側近ら5人が有罪となったが、トランプ氏自身が不正に直接関与した証拠は出なかったため、有罪を免れた。しかし、今回浮上した「ウクライナ疑惑」では無罪放免とはいかないだろう。自らの再選を有利にするために軍事支援を見返り条件にして外国の首脳に圧力をかけ、政敵のバイデン前副大統領の汚点探しを依頼したとされる問題で、電話会談の記録や内部告発状などの「証拠」が存在するからである。
野党・民主党のペロシ下院議長は9月24日、「大統領の違法行為は新たなレベルに入った。大統領の行動は大統領職の宣誓、米国の安全保障、選挙の健全性に対する裏切りという事実を露呈した」と述べ、弾劾調査の開始を宣言した。それ以来、メディアは連日、調査状況をトップで報じて国民の関心も高まり、弾劾調査を支持する人の割合が増え、大統領は就任以来最大の窮地に追い込まれている。
ウクライナ疑惑の核心は、大統領の権力乱用と側近らによる隠蔽である。
トランプ大統領は今年7月25日、ウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談で、「米国はこれまでウクライナに莫大な支援をしてきた。そこでお願いがある」と切り出し、「バイデン氏の息子について多くのことが言われている。バイデン氏が訴追を阻止したのかどうか多くの人が知りたいと考えている。司法長官と協力してほしい。個人弁護士のジュリアーニ氏とバー司法長官に電話させる」と述べたという。
トランプ大統領側は、「会談で具体的な交換条件を示したわけではない。選挙にもふれていないので問題ない」と主張した。
しかし、オバマ政権で司法省の国家安全保障担当責任者を務めたジョン・カーリン氏はこう指摘する。
「大統領が自らの職権を使って外国の首脳に我々の頼みを聞いてほしいと言ったのですから、重大です。表向きは米国のためのようですが、実は自分の政治的利益のためです。大統領は個人弁護士のジュリアーニ氏と話すよう求めています」
つまり、トランプ大統領は個人弁護士と話すように求めたことで、個人的利益のために頼みごとをしたことを自ら露呈したのである。