そしてもう一つの核心である隠蔽問題は、ホワイトハウスの高官が大統領の会談記録を機密情報を扱う別のコンピューターに移して閲覧できないようにしたことから始まった。それによって大統領の不正の情報が議会に届かなくなる、と懸念した人物が内部告発状を情報機関の監察官に提出。監察官はそれを精査して、「信頼性と緊急の懸念が認められる」と判断し、情報当局トップのマグワイア国家情報長官代行に報告した。長官代行はすみやかに告発状を議会に提供するべきだったがそうせずに、大統領の部下にあたるホワイトハウスの法律顧問と司法省の高官に相談し、「大統領特権に関わる問題なので、議会への説明は必要ない」と言われ、従ったという。その結果、告発状は何週間も議会に届けられなかった。
下院情報委員会はそのことを問題視し、マグワイア氏を公聴会に呼んで話を聞いた。その後でシフ委員長は、「重大な懸念が生じた。内部告発者が情報を議会に提供できるようにするはずのプロセスがうまくいかなかった。ホワイトハウスの法律顧問と司法省の助言が邪魔したからです」と述べた。
それからシフ委員長は、「内部告発者は詳細で信用できる告発をし、大統領の不正の全体像を調べるためのいわば工程表を示してくれました」と、真相解明に向けて自信を見せた。
追及の手を強めるシフ氏に対し、トランプ大統領は「ずる賢いシフは辞めさせるべきだ。ろくでなしだから」などと激しく攻撃した。しかし、連邦検察官を務めた経験を持つシフ氏は怯(ひる)むことなく、「我々は本気です。徹底的に調査します。大統領側が弾劾手続きを妨害してくるようなことがあれば、それ自体弾劾される有力な理由となります」と警告した。
民主党による追及が激しさを増すなか、トランプ大統領は10月8日、弾劾調査への協力を一切拒否すると表明した。主な理由として、下院本会議での決議を経ずに弾劾調査を始めた点をあげたが、憲法は弾劾調査を始めるための本会議決議を義務づけていない。
そのため民主党は「弾劾調査を混乱させ、妨害しようとの試みだ。下院の六つの委員会は憲法にもとづき、弾劾調査を実施し、関係者に召喚状を出している」と猛反発した。大統領の協力拒否の裏には、「法廷闘争に持ち込んで時間稼ぎをしよう」との思惑がちらつくため、民主党はその手に乗らず、その後も迅速に調査を進めている。
民主党指導部は下院委員会で証拠固めをして、大統領の不正行為が弾劾に値すると判断したら、本会議で弾劾訴追案の採決を行う方針だ。下院で多数を握っているので可決される可能性は高いが、問題は47議席(定数100)しかない上院である。上院の弾劾裁判で大統領を有罪にするための3分の2を確保するには、20人の共和党議員の賛成が必要となり、ハードルは高い。