春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『春風亭一之輔のおもしろ落語入門 おかわり!』(小学館)が絶賛発売中!
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イラスト/もりいくすお

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「eスポーツ」。

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 私はファミコン直撃世代だ。任天堂の『スーパーマリオブラザーズ』が発売されたのは1985年の9月。私は小学2年。当時、ファミコンの「本体」が1万5千円くらいか。子供のおもちゃとしては破格である。また『スーパーマリオ』のヒットがきっかけで、この年から本体の売り上げが爆発的に伸びたらしい。私はソフト(「カセット」と呼んでたなあ)だけを小遣いで買い、友達の家に行き、よそ様の本体で遊ばせてもらっていた。しかもジュースとお菓子をご馳走になりながら。肩身が狭すぎる。「みんな持ってる」と泣いて親に頼んでも「よそはよそ、うちはうち!」と本体を買ってくれない。「欲しけりゃ自分でカネ貯めろ」だって。

 明くる年の正月。無駄に親戚が多いのが幸い。年始の集まりに顔を出しまくり、お年玉が1万5千円貯まった。街のおもちゃ屋へ行き、「本体くださいっ!」と言うと、ハゲの店主が吐き棄てるように「いま品切れっ!!」。「本体が入荷するのは3月だね」。呆然としていると、店主が「カセット4本付けて、2万円なら売ってもいいよ」。今考えると、小2の幼子にやるか!と思うくらいのあこぎな商売だ。勿論金は足りないが、一応「どんなカセットですか?」と聞いてみた。「えーと、『バンゲリングベイ』と……」。クソゲーだ。当時はそんな言葉は無かったが、つまらなくて売れないゲームを抱き合わせて一掃しようというハゲ店主。「あとは『テニス』『ベースボール』『ゴルフ』かな」。ファミコン草創期のスポーツもの。これも売れ残りだろう。この中にあってやはり『バンゲリングベイ』のクソっぷりは一際目立つ。

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