選手個々が考え抜いていたことは試合を見ればわかる。8月11日から4番に座った中村剛也。6度も本塁打王を手にしており、誰よりも多く本塁打を打ちたいという自らの美学を持つ男が、好機ではセンター返しの軽打を行い、打点を積み重ねた。すると、どうだ。4番を外れて下位に回った山川穂高も、何でもかんでもフルスイングしていた部分を修正したのか、強引さは消えていった。局面での引き出しが増え、打線はより重厚となった。
36歳の中村にとっては、残りの野球人生で輝くための引き出しを増やしたであろうし、山川も長いスランプをつくらないための方法論を得たであろう。昨年はCSファイナルステージで打線が封じられたが、簡単には抑えられない打線になったと思う。
最後になるが、MVPは森友哉である。彼と優勝目前に話をする機会があったのだが、「ウチは打線が強い。投手は無失点に抑えようと思うのではなく、最少失点で」と話していた。3点、4点を取られたっていい。8月、9月に先発が試合をつくれるようになった。他球団ならアンバランスに見える「投打の歯車」を森が生んでいった。クリーンアップを打つ打力とともに、攻守に代えの利かない選手になった。
※週刊朝日 2019年10月11日号