
新たなコンセプトに挑んだメルドーの偉業
Highway Rider / Brad Mehldau
スタジオ・アルバムとしては4年ぶりとなるブラッド・メルドーの新作である。近年のメルドーはソロとトリオを2本柱に活動を行ってきたが、今作では新たなコンセプトに挑んでいて興味が尽きない。
2002年発表作『ラーゴ』以来となるジョン・ブライオンが、再びプロデューサーで参画。ポップス畑のヒット・メーカーに依頼した理由を、メルドー本人に宛てたぼくのメール・インタヴューで、「ブライオンこそがすべてのものをまとめあげることができる唯一の人物だから」と答えた。
レギュラー・トリオにジョシュア・レッドマンと室内管弦楽団が加わった編成は過去最大。レッドマン・グループで初期キャリアを築いたメルドーにとって、自身のリーダー作にレッドマンを迎えたのは今回が初めてだ。また2枚組のヴォリュームもスタジオ録音作としては初めて。
これは主人公である“ハイウェイ・ライダー”の旅の記録を主題としているため。自宅を出発してディスク1の最後に中間地点に到達し、ディスク2のエンディングで帰宅するイメージだという。『ラーゴ』で木・金管楽器の編曲を手がけ、オーケストレーションを専門家に委ねたメルドーが、後者をも自身で担ったのが今作のチャレンジ項目だ。ほぼアコースティック・サウンドで全体を作り上げたことも、『ラーゴ』の延長作だと単純には言えない新展開となっている。
演奏から浮かび上がるキーワードを並べると、牧歌的、人力ドラムンベース、パット・メセニーとのファルコンつながり、ピアノ・コンチェルトなど。曲ごとに編成に変化をつけながら、2枚組全体で1つの物語を展開するプログラムは、非常によくアイデアが練られたものだ。
各ディスクの最後の2曲はメドレーで演奏されるが、いずれも2つのパートからなる1曲として作曲されたためで、2部構成の性質を持つテーマに関連している、というのがメルドーの説明である。ストリングス+ベースの《ナウ・ユー・マスト~》からほぼ全員参加の《ウォーキング~》で、最初のピークを演出。そしてストリングスのみの演奏に続いて荘厳な雰囲気を高める《オールウェイズ・デパーティング》から最終曲《オールウェイズ・リターニング》に進むと、2リズムが加わってクライマックスへ。本作でメルドーが目指したピアノ・コンチェルトと何か、に対する回答を得られて、アルバムの最期にカタルシスを体感できる。偉業を成し遂げたメルドーに拍手を送りたい力作だ。
【収録曲一覧】
Disc 1
John Boy
Don’t Be Sad
At The Tollbooth
Highway Rider
The Falcon Will Fly Again
Now You Must Climb Alone
Walking The Peak
Disc 2
We’ll Cross The River Together
Capriccio
Sky Turning Grey (For Elliott Smith)
Into The City
Old West
Come With Me
Always Departing
Always Returning
ブラッド・メルドー:Brad Mehldau(p) (allmusic.comへリンクします)
ラリー・グレナディア:Larry Grenadier(b)
ジェフ・バラード:Jeff Ballard(ds)
ジョシュア・レッドマン:Joshua Redman(ts,ss)
マット・チェンバレン:Matt Chamberlain(ds)
2010年作品