東京五輪を前に旧築地市場では建物の解体作業が進んでいる (撮影/多田敏男)
東京五輪を前に旧築地市場では建物の解体作業が進んでいる (撮影/多田敏男)
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アスベスト輸入量と中皮腫死亡者数の日英比較  (週刊朝日2019年9月27日号より)
アスベスト輸入量と中皮腫死亡者数の日英比較  (週刊朝日2019年9月27日号より)

 東京五輪や大阪・関西万博を控え、建物の解体ラッシュが続く。懸念されるのがアスベスト(石綿)の飛散だ。吸い込めば数十年後にがんの一種の中皮腫などにかかるリスクがあり、「静かな時限爆弾」と恐れられる。対策を怠るずさんな工事も相次ぐが、行政の対応は後手後手。隠されがちなアスベスト飛散の問題に今こそ目を向けたい。

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 石綿被害は全国的に広がり、死亡者数が急増、過去最悪を更新してきた。

 英国は石綿使用の開始、禁止ともに約20年早い。英国では被害のピークは越えつつあるとみられているが、それでも年間約2500人が中皮腫で亡くなっている。

 日本の17年の死亡者数は1555人。石綿使用量が英国の2倍近くで規制も緩かったことから、さらに多くなるとみられ、被害のピークが見通せない状況だ。

 ここまで見てきたように石綿の危険性は高い。国は段階的に製造・使用を禁止してきた。75年に含有率5%超の吹き付け使用が禁止となり、04年に1%超の製造・使用が禁止された。06年に含有率0.1%超に規制が強化され、12年には全面禁止となった。

 今では全面禁止されているが、私たちが最も注意すべきなのが建物の解体に伴う被害だ。輸入した石綿の約8割は建材に使われている。06年以前の建物では石綿を使っているものが多数あり、特に危険な吹き付け石綿が施工された建物は最大で約280万棟に上る。その解体ピークは9年後の28年にやってくると予想されている。

 ほかにも木造や戸建て住宅など約3300万棟にも使用された可能性がある。ありとあらゆる建物の改修・解体工事は、石綿リスクをはらむ作業なのだ。

 総務省行政評価局は16年に、建物解体時に石綿を飛散させない実効性のある対策を取るよう、厚生労働省や環境省に勧告している。両省は遅ればせながら、規制の強化に向けた検討を昨年から進めている。

 だが、専門家からは、「また形だけの改正になるのではないか」と懸念の声が上がっている。

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