“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、米中の総力戦が起きたときの日本への影響を推測する。
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『獅子の系譜』(津本陽)を読んでいたら、北条氏政、氏直父子は秀吉から宣戦布告を受けた後(天正17年・1589年)に、「領内の男子15歳から70歳までをすべて雑兵として動員することにした」とある。え、え、え? 織田信長も人生50年とうたっているくらいだから、当時の70歳って今の人に例えれば100歳を超えているんじゃないの? 確かに、すさまじい総力戦だ。
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昨年7月にトランプ米大統領が中国製品に追加関税をかけたことで米中貿易戦争が勃発した。私は直後に次のように書いた。
<貿易不均衡が起きたときは通常、関税引き上げによる「貿易戦争」でなく、為替調整による「通貨戦争」で解決を図ることが多い。同様の効果が得られるからだ。(中略)しかし、米国は為替調整によって、対中国の貿易不均衡を解消しようとしてもできない。中国が実質的な「ペッグ制」をとっているからだ。ペッグ制とは、人民元を人為的にドルの強弱と連動させるしくみ。米国がドルを弱くしようとすれば、人民元も弱くなり、相対的な為替レートは変わらない。米国は為替調整ができないため、その代わりに貿易戦争に向かったと思われる>
そして2月には、米中貿易戦争は通貨安による中国経済の勢いを止めたいというトランプ大統領の決意の表れだと、次のように指摘した。
<経済発展の原動力だったペッグ制廃止をも、米国は要求するのではないか>
予想どおり、今や米中は貿易戦争から為替戦争へと進んできた。この段階に至っても、日本では緊張感が感じられない。
しかし、この戦争は日本経済低迷の原因を教えてくれるとともに、日本の「Xデー」の引き金を引く可能性さえある。その意味ではもっと危機感を持ちたい。
日本の名目GDPは40年間で2.5倍強にしか拡大していない。経済成長率が先進国で断トツのビリだったのだ。一方、中国は220倍と大躍進。それを可能にしたのが、米国が大いに気にしている人民元安だ。