マスタングのボディに装置されているトレモロアームを引いて弦を緩め、ひずんだ音を出すと、その後元の音に戻りづらいのが特徴だ。
「マスタングは緩んだ弦が戻りきらないことがあるんです。すると、チューニングが狂ったと思うでしょ。でも、チューニングし直したらダメ。そんなときは、アームを指でちょんちょんと触ってあげると戻る。そのコツをつかむまでに時間がかかるギターです」
ギターにも個体差がある。6本あるどの弦のコントロールが難しいかはそれぞれ違う。
「扱い方のコツをつかむと愛情も芽生えるし、自分だけの音も生まれます。マスタングを手にしたギタリストは、もう勘弁してくれ! と思って手放すか、その個性を追求するか、どちらかでしょうね。僕の場合はどんどんかわいくなっていった。昔の自動車と同じですよ。1970年代のクルマって、よくエンストしたでしょ。でも、そういう手のかかるところがかわいかったりもする。あれに近い感覚です」
ショートスケールのマスタングだからこそ生まれた曲も多い。Charの代表曲、「Smoky」もその1つだ。
「『Smoky』はEm69というコードを使って、カッティング(利き手で複数の弦を一気に鳴らして和音を出したり、音を殺したりする奏法)をします。Em69は弦を押さえる左手が難しいんです。指を目一杯伸ばしても、全部の弦になかなか届かない。スタンダードのサイズの、ストラトキャスターやテレキャスターだと、もう大変です。ところが、ショートスケールのマスタングだと、比較的楽に押さえられます。ネックが短くて、フレットの間隔も短いでしょ。だから、指が届くんです。『Smoky』を作曲していたらね、思いもよらずEm69を押さえられて、かつて聴いたことのない音の響きになりました。『Shinin’ You, Shinin’ Day』という曲もそうですけれど、僕の場合、マスタングだからこそ生まれた作品はたくさんあります。楽器が音楽をつくらせてくれたといえるかもしない」